中学受験塾の理科講師が敬遠する出題で有名な慶應普通部。理科の範疇を越えた「生活」や「一般常識」のような問題や、「生物の詳しすぎる知識問題」が出題されてきました。ここの対策が難しく、私自身も苦戦した記憶があります。最近は少しずつ「普通の中学受験理科」のような問題が増えてきました。
さらに2024年度からは平均点や合格最低点も公表されるようになり、受験しやすくなった印象です。
今年度は「ばね」や「気体発生の計算」といった中学受験定番の問題が多く、多くの受験生にとって解き易かったのではないでしょうか。
配点・形式
100点 30分
3校ある慶應附属中学の中で唯一の4科目均等配点です。
大問は4問になることが多く2025年度も以下のようになっていました。
大問1 ばね・てこ
大問2 暑さ指数
大問3 気体の発生
大問4 イネ
受験者平均 55.1 合格者平均 67.0
合格最低点 246/400
受験者平均と合格者平均の平均が12点も離れていますので、理科の得点が合否にかなり大きく影響していると考えられます。
普通部独特のクセのある問題も登場していましたが、ここは難問と簡単な問題がはっきりしていたため差がつきにくいのではないかと感じました。一方、計算問題が例年より多く出題されていたため、ここで点差がかなり開いた可能性があります。
出題
大問1
ばね・てこの計算問題でした。難問はありませんでしたが、処理すべき条件がいくつかあったため、ミスが出やすかったかもしれません。この手の計算問題は得意な男子が多いです。ここで稼いだ受験生も多かったことでしょう。
逆に計算問題があまり得意ではなく、普通部独特のクセのある問題なら取れる…というタイプの受験生は大幅に失点してしまったかもしれません。
大問2
トレンドの「暑さ指数」の問題です。「生活」に直結するような出題の多い普通部、と考えるとど真ん中の出題といえるでしょう。模試でもよく登場していたので、多くの受験生にとって取り組みやすかったのではないでしょうか。
大問3
中学受験の定番問題ではありますが、普通部らしいひねりのあるアプローチで、やや難しかったかもしれません。ただ選択問題であったため、はっきりとその選択肢を選ぶ理由が分からなくても「これかな?」という判断が出来そうな問題が続きました。要領のよいスマートな生徒を求める出題は慶應附属中に共通しています。
大問4
イネに関する出題で、ここは普通部らしさが炸裂していました。やや詳しい植物の問題や「一般常識」に近い問題、社会科に近いような問題が登場しました。難問も混じりましたが、各問の難度の差がはっきりしていたので、点差がつきにくかったのではないかと思います。
解説
問題の分類
知:知識問題
考:思考問題
計:計算問題
問題のレベル分け
〇:絶対に取りたい
△:この中から半分以上取りたい
×:捨てても可
問1
1.考 計 〇
バネの問題は自然長とのび方をはじめに整理します。この問題もそれですね。
バネA 自然長 4㎝ おもり5個で2㎝のび
おもり4個のところでバネAとバネBの長さが同じになっているので、このときのバネAの長さを求めます。
バネA 自然長 4㎝ おもり5個で2㎝のび
1個 0.4㎝のび
4個 1.6㎝のび
バネAの長さ=4+1.6=5.6(㎝)
バネBの長さも同じなので、おもり4個のとき長さ5.6㎝と分かります。
よってバネBは おもり3個 5.0㎝(グラフから)
おもり4個 5.6㎝
→おもり1個で0.6㎝のびている
よってバネBの自然長は
5-0.6×3=3.2(㎝)となります。
解答 3.2(㎝)
第1問としては手間の多い問題でした。ここを間違えると後半に響くので、確実に正解することがとても重要だったと思います。
2.考 計 〇
図2から、バネAにはおもり1.5個分が下がっていることが分かります。
バネA おもり1個 0.4㎝のび
1.5個 0.6㎝のび
バネAの長さ=4+0.6=4.6(㎝)
解答 4.6(㎝)
3.考 計 〇
ばねAにバネBを下げたときの長さは2.で求めたバネAの長さと同じなので、
バネBの重さ=おもり1.5個分 と分かります
バネB 自然長3.2㎝ おもり1個0.6㎝のび なので
バネBにバネAを下げたときののび 3.8-3.2=0.6(㎝)
これはおもり1個分です。
バネA おもり1個分の重さ
バネB おもり1.5個分の重さ
バネBはバネAの1.5倍の重さになります。
解答 1.5倍
4.考 計 △
上のバネAには バネAの重さ(=おもり1個)+おもり2個=おもり3個
下のバネAには おもり2個
が下がっています。
上のバネAののび=0.4×3=1.2(㎝)
下のバネAののび=0.4×2=0.8(㎝)
合計の長さは
4×2+1.2+0.8=10(㎝)
解答 10.0(㎝)
問題文に「5.0」㎝のように表記されているので「.0」はつけておきたいところです。
5.考 計 △
板をバネAに下げると10㎝だったので
バネAののびは10-4=6(㎝)
おもり1個 0.4㎝のび
6 ㎝のび
板の重さは
1×60/4=15
おもり15個分になります。
この板を図5のようにバネAとバネBに下げると
「太さが一様」なので、バネAとバネBに半分(=おもり7.5個分)ずつかかっていることになります。
ばねA おもり1個 0.4㎝のび
おもり7.5個 0.4×7.5=3(㎝)のび
→長さは 4+3=7(㎝)
問題文に書いてあるのでこの考え方で正しいと確認できます。
バネB おもり1個 0.6㎝のび
おもり7.5個 0.6×7.5=4.5(㎝)のび
→長さは 3.2+4.5=7.7(㎝)
解答 7.7(㎝)
(別解)
バネAの長さが7㎝→バネAののび3㎝→バネAにかかる力 おもり7.5個分
→バネBにかかる力 おもり7.5個分 であることが分かります。
6.考 計 △
板の重さをおもりにして重心に下げ、2つのバネに重さを分けます。
図のように分けられるので
左のバネ(穴6)には15×1/3=5(個分)
右のバネ(穴21)には15×2/3=10(個分)
穴6のバネA 0.4×5=2(㎝)のび
長さ 4+2=6(㎝)→問題文にあるのに正しいことが確認できます。
穴21のバネA 0.4×10=4(㎝)のび
長さ 4+4=8(㎝)
解答 8.0(㎝)
(別解)
穴6の方に のび2㎝→おもり5個分かかっているので
穴21の方には 15-5=10(個分)かかっていることが分かります。
5.と6.で片方のバネの長さが出ているので、力のかかり方のヒントが示されています。
7. 考 計 △
板の中央におもり2個と板の重さが下がっているので、バネAと左の支点に半分ずつ重さがかかります。
(15+2)÷2=8.5(個分)
0.4×8.5=3.4(㎝)のび →長さ 4+3.4=7.4(㎝)
解答 7.4(㎝)
8. 考 計 △
板の中央に板の重さがかかっていて、穴6と穴31のバネで支えています。
板の重心までの距離の比が2:3なので
穴6にかかる力:穴31にかかる力=3:2
→穴31にかかる重さ 15×2/5=6(個分)
下のバネAにかかる重さ おもり6個分
→下のバネAののびは 0.4×6=2.4(㎝)
上のバネAにかかる重さ おもり6個分+バネA1本(=おもり1個分)=おもり7個分
→上のバネAののびは 0.4×7=2.8(㎝)
バネA2本の合計の長さは 2.4+2.8+4×2=13.2(㎝)
解答 13.2(㎝)
問2
1. 知 考 △
日本の夏は(□□□□)…漢字4字。ときたら「高温多湿」しかないですね!
解答 高温多湿
2. 知 △
熱中症警戒アラートは環境省と気象庁です。「生活」を出題してくる普通部志望なら時事知識として知っていた方がよいでしょう。
解答 ア、ウ
3. 考 〇
汗をかくと体内の水分が減るため、尿として排出する水は少なくなります。また、尿に含まれるその他の物質(不要物)の量は変わらないので、尿は濃くなり、色も濃くなります。
これは経験で知っている子がほとんどでしょう。
解答 ケ
4. 知 考 〇
軽度の熱中症になったときには
・首やわきの下に冷たいタオルを巻く
・塩分をふくむスポーツドリンクを飲む
家庭科や体育で習いそうですね。2つと指定されているので選びやすそうです。
解答 ス、セ
5. 計 △
暑さ指数の式に当てはめるだけです。
(タ) 0.1×33+0.2×47+0.7×27=31.6
(チ) 0.1×24+0.2×37+0.7×19=23.1
(ツ) 0.1×35+0.2×37+0.7×27=29.8
(テ) 0.1×28+0.2×32+0.7×26=27.4
「厳重警戒」は暑さ指数が28以上31未満、これに当てはまるのは(ツ)だけです。
「すべて選び」とあっても当てはまるものが1つのことがあります。不安になることはありません。
解答 ツ
6. 考 記 △
暑さ指数の中から湿度に関係のある部分を探すと…「湿球温度」があります。
湿度が高い(空気中の水蒸気量が多い)と水が蒸発しにくくなるため、湿球のまわりの水の蒸発量が減り、気化熱が奪われにくくなります。→湿球温度が高くなります
湿度が高いときに暑さ指数の値が大きくなればよいので、湿球温度にかける数値が「0.7」と、乾球温度や黒球温度にかける数値より大きくなっているものと考えられます。
解答例 湿球温度にかける数が大きくなっている。
7. 考 記 △
熱中症予防には普段から軽く運動した方がよい理由
汗をかくと体から熱が奪われます。逆に汗をかきにくい人は体に熱がこもり、熱中症になりやすくなります。
普段から運動をしていると汗腺が開いて汗をかきやすくなり、体の熱を放出できるため、熱中症になりにくくなると考えられます。
解答例 汗をかきやすくなるから。
問3
1. 知 〇
二酸化炭素の発生法。
解答 ア、エ
2. 考 △
A(ビーカー+塩酸+重曹の重さ)よりもB(重曹を加えた後に量った重さ)の方が軽くなっているのは発生した二酸化炭素が空気中に逃げるためです。
つまり、A-Bは発生した二酸化炭素の重さです。
これが右上がりになっているのは、加えた重曹が多くなるほど発生した気体が多くなるからです。
解答 キ
3. 考 △
グラフの水平な線よりも上側にデータがある理由。
グラフが水平になっているのは気体の発生量が一定になっているからです。ここで、気体の発生量が突然増えているとは考えられません。何らかの実験ミスがあったと考えるのが妥当です。
A-Bの値が大きくなっている→Aの値が大きい、またはBの値が小さい はずです。
表を見ると、Bの値がやや小さくなっています。これですね!
Bの値=量った重さ が小さくなる理由 これを考えていきましょう。
(サ)塩酸がビーカーの外に飛び散った Bが小さくなるので 〇
(シ)重曹を多く加えた Bが大きくなってしまうので ×
(ス)重曹がビーカーのふちについた Bは変わらないはず ×
(セ)重曹が溶け残った Bは変わらないはず ×
解答 サ
内容はやや難しいですが「1つ」と指定してくれているので、選びやすいと思います。
4. 考 〇
塩酸の量が20mL→40mL と2倍になっているので、反応する重曹も、気体の発生量も2倍になると考えられます。
解答 チ
5. 考 △
密閉容器に入れて実験を行うと…
気体が逃げないので、Bの値はAと同じになってしまいます。
重曹の値を変えても常にA-B=0
つまり、水平な直線になります。
解答 ネ
問4
1. 知 A △ B × C × D △ E × F △ G △
A 田植え 「5月」
B 稲刈りをするときの茎の数 10本程度 イネは分げつといって成長とともに茎が増え、20~30本程度になります。今回は「最大」なので、10本か40本なら「40本」でしょう。
C イネの開花 「8月」
D 2024年コメ不足の理由 2023年の「猛暑」
E 2024年コメ不足の理由 2024年に起こった「 」
これは難しいです。稲作に影響を与えそうな自然災害と考えると干ばつ、洪水、冷害などがありますが、2024年に大きなものがあったでしょうか?
7/25に最上川の氾濫があったので、これでしょうか?また、2024年に起こった大きな災害としては「能登半島地震」があります。この地震により水田に亀裂が入ったり水路が壊れたりして、稲作に被害が出ています。ただ、全国的なコメ不足と考えるにはどちらも範囲が狭い気がします。
もう一つ、8/8に宮崎県でも地震がありました。これにより「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。これにより、災害に備えて米を買っておく人が増えたため、コメ不足が加速した?
確信が持てませんが「地震」としておきます。
F イネの品種改良 かつては「寒さ」に強い品種を作っていました。以前は北海道では稲作が出来ませんでしたが、品種改良により可能になっています。
G 近年は反対に「暑さ」に強い品種の開発が進んでいる 「反対に」とあるので「暑さ」でしょう。小学生は最近の夏しか経験していないので実感がないと思いますが、近年の夏の暑さ・気候の変化は大人なら皆感じていると思います。
解答 A 5 B 40 C 8 D 猛暑 E 地震 F 寒さ G 暑さ
普通部らしい「一般常識」のような問題です。一部かなり難しくなっていました。
2. 知 〇
イネと同じように発芽するもの。単子葉植物ですね。
オヒシバを知っていた受験生はほぼいないと思いますが「2つ」と指定されているので消去法で選べると思います。
アジサイは網状脈の葉が思い浮かべやすい→双子葉
ウメ→サクラのなかま→葉は網状脈→双子葉
エンドウマメ→種子の子葉が2つ→双子葉(葉脈が網状脈、と考えてもOK)
解答 イ、オ
3. 知 ×
イネと同じように受粉→花粉が風に運ばれる?自家受粉?
自家受粉はイネ・アサガオ・エンドウくらいしか習っていない→この3つが選択肢にないので風媒花の方でしょう。
風媒花→花びらのない花、と考えていきます。
カキノキ→花びら…あるかも?
キク→花びらあり!
クヌギ、ケヤキ→花びら…なさそう?クヌギやケヤキの花を思い浮かべられる小学生はまずいないでしょう。
コマツナ→アブラナ科→花びら4枚
キクとコマツナは消去、カキノキ・クヌギ・ケヤキの中で花びらがありそうなものをカットします。カキがいちばん花びらありそう、と考えられたらよいですね!
解答 ク、ケ
4. 知 〇
イネの発芽の様子。これはテキストにも登場するので、かけた受験生が多かったと思います。
解答
5. 知 △
イネのおしべの作図。普通部対策として練習していた受験生はかけたでしょう。おしべは6本ですね。
解答
6. 考 知 △
水田でイネを育てる理由
解答例 雑草が生えにくくなるから。
温度変化を小さくできるから。
このあたりが妥当でしょう。知識で解いた受験生も、考えて解いた受験生もいたことと思います。
水中で発芽できる植物は日本にはあまり多くないので、イネ以外の植物は水田では増えにくくなります。
「水は温まりにくく冷めにくい」は海風・陸風で登場します。こことつなげて考えられればOKです。
7. 知 △
稲わらが使われるもの 「すべて」と個数指定がないのが少し難しいですね。
わらに包まれた納豆は見たことあるかもしれません。草履も昔話などで見たことがある子もいるでしょう。「わらで堆肥を作る」は学校の授業などで登場していそうな気もします。
解答 シ、ス、ソ
普通部らしい問題ですね。「わら」を見たことがない受験生も多いとは思います。見たことがなくても、知っていたり想像したりできる子が求められているのを感じます。
8. 考 △
直まきの利点にならないもの 「1つ」と指定してくれています。6.の水田で育てる理由がヒントになっています。
雑草が生えやすくなり、冷害や干ばつのリスクも高くなります。
よって「収穫量が増加する」はない、と判断できます。
解答 チ
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