慶應義塾中等部。
言わずと知れた、慶應義塾大学の付属中の3校のうちの1校となります。
基本的に校則が存在せず、「自ら考え、 自ら判断し、 自ら行動して、その結果に責任を持てる自立した人物に」という「独立自尊」という言葉が、学校全体のテーマとなっています。
◆各種データ
想定合格点 男子80点 女子85点(100点満点中)
◆出題形式
試験時間45分 100点満点
◆大問5題構成
大問1 小説文 約9問
大問2 説明文 約8問
大問3 文学史 約9問
大問4 知識(語彙) 約8問
大問5 漢字の書き取り 約15問
◆問題の種類(2021年度)
・記述 約2%
・選択肢 約68%
・抜き出し 0%
・漢字 約30%
という割合になっています。
選択肢問題を中心とした大問4~6題構成の形式となっています。
長文はそのうち2題。
知識問題と読解問題を融合した問題が出題されることもあります。
記述は例年1~2問の出題です。
年によっては抜き出し問題が出題されることもありますが、1問程度の出題です。
漢字は2000年代、2010年代と比較すると、「取り組みやすくなった」と言えると思います。
「字は小学生で習うもので、その使い方はなかなかしない」という難問の出題が数問ありますが、SAPIXの「漢字の要 パート1」や四谷大塚の「漢字とことば」などをやり込むだけで十分です。
難問が書けたからと言って、読解問題が取れていなければ合格は厳しいです。
また、トピックスとなるのは、「文学史」の出題でしょう。作品名、作者名、冒頭文、あらすじなどから作品などを判定する問題が多いです。
毎年のように出題されることから、「高校入試で要するレベル」まで扱う必要があると思われがちですが、各塾で用意されているテキストの内容の習得を元に、過去問を解いてみてどういう出方をしているかを知ることが重要です。
それは、
①マニアックすぎる内容を出しても、誰も知らない内容なら全員×となり差がつかないこと
②文学史に30点など高い配点を割り振ること自体考えにくいこと
の2点がポイントになると思います。
福澤諭吉を始めとした、芥川龍之介、宮沢賢治、夏目漱石、太宰治などの小学生でも耳にしたことのありそうな作品を中心に簡単なあらすじ、主人公の名前などの周辺情報を押さえるのが良いでしょう。
四谷大塚の「4科のまとめ」の文学史コーナーでも、十分対策が取れます。
尾崎紅葉、柄井川柳、田山花袋などは恐らく出ないか、出てもロクな点にならないでしょう。
各塾で決められている「文学史」の教材の学習で十分です。
結局のところ、中学入試で最も配点が高く設定されているのは、間違いなく「読解問題」です。知識問題を出さない学校はありますが、読解問題を出さない学校は存在しません。
慶應義塾中等部で合格点に到達しないのは、「読解問題で点数が足りない」ことが原因であることがほとんどです。
マニアックな「漢字」や「文学史」も大切ですが、「読解問題」の正答率が合否を左右する、というのは他の学校と何ら変わりありません。
また、慶應義塾中等部は読解問題がかなり平易です。
「正解するためにできること」はしっかり行うべきだと思います。
ここからは2021年度の慶應義塾中等部の出題を通して、どのような戦術で取り組んでいけばよいかを検討していきたいと思います。
今回使用する指標
○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題
解答例はこちら
大問1 小説文
問1選択肢 ○
「永遠に捕まえられない獲物」
とは何かについて答える問題です。
傍線部Aと同じ文の中の「この柴犬」が「ゴン」のことだと分かれば、ゴンが何を追っているのかを押さえれば良いでしょう。
ここの一文前の「ゴンは…自分の尻尾を追いかけまわしている」が見つけられれば、答えは「3 尻尾」です。
問2選択肢 ○
「問題にするほどのこと」
とは何を指しているかを答える問題です。
傍線部Bと同じ文の、「呼び止める順番には多少の腹立たしさもあるが」が見えれば、「5 僕の名前よりもゴンの名前を先に呼ぶ」が選べると思います。
問3選択肢 ○
「少し驚いたような素振りでうまく答えた僕」
のときの、僕の様子を答える問題です。
同じ段落の中の
「そんな僕がゴンの散歩中に偶然声をかけられて以来、彼女とは何度となくここで会って話をするようになったのだ」
とあります。
「たまたま」の上に「、」がついているのは、「 」と同じで【本文中の特別な意味】を疑うべきでしょう。
今回なら、
「何度となくここで~会って」
とあるので、【偶然ではなく、何かの狙いがあって何度も会っている】と判断できるかどうかがポイントです。
これを上手く言い換えている2を選びましょう。
問4語彙の問題 選択肢 ○
「 D をかけておとなしく、ぱっとしない平凡な奴」
という表現から、 D にあてはまるものを選ぶ問題です。
「輪をかけて」が思い浮かぶかどうかがカギです。
語彙の問題は「本文での使われ方」が大きなヒントになりますので、設問や選択肢だけで判断することのないようにしましょう。
問5記述問題 △
「僕とゴンを比較」しながら、
「僕がゴンのどういう点を生意気と思ったのか」
答える問題です。比較の記述ですね。
傍線部Eと同じ文の中にある
「その様子がいかにも自然の姿そのもの」
に注目します。「生意気」なのはゴンですから、「ゴンが自然の姿で何かをしているから、生意気だと感じている」とわかります。
この何かを、私は「(森本由紀に)可愛がられている」にしました。
また、比較の記述なので、【「自然の姿」と逆の、僕の様子】を探し、傍線部Eの数行前の【ぎこちない答えしかできぬ自分がうらめしくて…】が見つかれば、
【僕…ぎこちない対応 ゴン…自然の姿・可愛がられている】を組み立てて完成です。
問6選択肢 ○
傍線部F「目配せ」から読み取れない気持ちを選ぶ問題です。
傍線部Fと同じ文から、
「教室の何人かの男子たち、女子たちが自分を冷やかす」
様子がとらえられれば、唯一プラスイメージとなる「4 いたわり」を選べると思います。
問7選択肢 △
傍線部G「救われていただろう」につながる理由を答える問題です。
同じ文の中の
「そのとき少しでも僕をにらみつけてくれさえすれば」
とあります。ここより前のところから【僕が「~森本なんてマジで勘弁」という「失礼なこと」を言ってしまったこと】が拾えるかどうかがカギです。
これを言い換えている
「1 自分に対して非難の目~罪の一部を自覚し償うことが…」
を選べれば正解となります。他の問題と比べて少しだけ難しい問題です。
問8選択肢 △
H に何が入るかを答える問題です。
H の周辺の
「タケシは悪い、周りのはやし立てた奴らも目配せしていた女子も悪い。けれど H 、紛れもなく僕だった」
という表現から、 H に【一番悪いのは】といった表現が「解答イメージ」であてはめられるかどうかががカギでしょうか。
選択肢でプラスイメージが入っている1・2・3はカット。
4と5を検討し、【一番悪い】に近い「5」が正解です。
問9選択肢 △
傍線部I「ねぇ中川君~思わない?」というセリフについて説明したものを選ぶ問題です。
傍線部Iの直後から、
「全身がかあっと熱くなった」
「彼女は僕よりも一枚も二枚も上手で、僕はあまりにも幼かった」
と拾います。
森本由紀は
「僕を責めるようなセリフを言わず、僕に幼さを自覚させて」
います。
どちらも満たしているのは「3」ですね。
1と3で迷うかもしれませんが、1は「いつまでもまごまごしている」「あきれ果てた」が×です。
大問2
問1 接続語 ○
Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの前後の内容をしっかり読んで正解したいところです。
問2 脱文(段落)挿入 ○
脱文を見てみると、「ペストというのは…」とあるので、「ペストがどういう感染症か」を解説している段落になります。
あてはまるのは(1)の箇所です。
決め手は(1)の直後の
「それが実際に流行していた時代から…」
とあります。
最初の段落は「ペストという作品(書物)」の話であり、感染症のペストの話ではないと判断できるかどうかがカギになるでしょう。
問3 語彙 ○
「天秤にかけている」の意味を答える問題です。
「為政者(=政治を行う者)が疾病撲滅か経済優先かを天秤にかけている」
という文から判断しましょう。
「疾病優先か経済優先か」というところから【2つを比較しているもの】
答えは「4 利害などを比較する」です。
ちなみに疾病は「しっぺい」と読みます。増田は中学1年のときの漢字テストでこの字の読みを間違えたことがあります…。
問4 選択肢 ○
「北里柴三郎」が本文中でどう書かれているかを判定する問題です。
Ⅱ 以降から「北里柴三郎」が出てくるので、ここから最後までの段落をしっかり読んで判断しましょう。
正解は「3」です。
各選択肢の×ポイントは「1 慶應義塾医学所を卒業後」「2 独力で」「4 親友であった長与専齋」「5 赤痢菌を発見(これは志賀潔ですね…)」です。」
問5 語彙 ○
縁の下の「力持ち」を知っているかどうかです。簡単だと思います。
問6 選択肢 ○
本文の内容と照らし合わせて間違っているものを選ぶ問題です。
「5 柴三郎に慶応大学医学部の学部長になってほしかったから」
とは本文で一切書かれていません。
「…柴三郎の情熱は今も慶應大学医学部や慶應大学病院に息づいているそうである」
としか書かれていないので、そこから判断しましょう。
大問3 文学史
問1・2 作品の一節から(問1 A~Eの作品名)(問2 C~Fの作者名)を判定する問題です。
今回は各作品ごとに○△×をつけます。
A作品名△ ガリバー旅行記とタイトルを聞いたときに、「主人公が小人に捕まっているシーン」などが思い浮かぶレベルでないと厳しいでしょう。
四谷大塚の四科のまとめなどに載っている内容ではありますが、外国の文学作品は正答率が下がりがちです。
B作品名△ 「天竺」から「西遊記」と思い浮かぶかどうか。知らないと厳しいでしょう。
C作品名○作者名○ 「カムパネルラ」「ジョバンニ」から「銀河鉄道の夜」が思い浮かぶかどうか。宮沢賢治という作者名とともにこれは取れてほしいところです。
D作品名○作者名○ 「お釈迦様」「犍陀多(かんだた)」「血の池の底へ~沈んで」から「蜘蛛の糸」と浮かぶかどうか。作者名は芥川龍之介。これも取りたいところです。
E作品名×作者名× 「ジャン・ヴァルジャン」から「あぁ無情(レ・ミゼラブル)」が浮かぶかどうか。外国の作品だと馴染みが薄い可能性もあるので、×にしています。
F作者名× 「ロミオ様」から「ロミオとジュリエット」と判定できるかどうか。作品名はすぐに出てきそうですが、「シェイクスピア」は馴染みが深くなさそうです。
日本の文学作品と作者を覚えておけば、十分勝負になります。
大問4 語彙 ○
設問のリード文からヒントが出ています。
「SDGs」関連だと気付ければ、もっと難易度は下がるでしょう。
ここは絶対に落としてはいけません。
大問5
漢字 サ× シ× ス△ その他は○
勝負の分かれ目です。
15問中12問は正解したいところです。
サ・シはお馴染みの「小学生で文字自体は習うが、それだと思いつきにくい漢字」です。
8割できていれば十分です。
◆まとめ
毎年恒例ですが、「読解は平易、文学史と漢字はところどころ難問ですが概ね取りやすい」問題です。
合格ラインも高めに設定されていると思います。
「初めて見た内容の条件を整理し、試行錯誤しながら正解を検討する」知識問題などが出ることがありますが、これも読解の点数が安定していたら、そんなに恐れるところはありません。
繰り返しになりますが、「漢字・文学史・知識の対策」にばかり目がいきますが、「読解で満点に近い点数が取れていること」が大前提です。
一般的な意見と逆のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、「慶應義塾中等部は読解分野が取れているか」が合否の分かれ目となります。
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