サカセルコラム

駒場東邦中の国語分析(2025年) Column

過去問分析

駒場東邦中の国語分析(2025年)

2025.06.29

◆各種データ
合格者平均点 77.8/120
受験者平均点 73.5/120
国語想定合格ライン 75/120

◆出題形式
試験時間60分 120点満点

◆大問1題構成
文学的文章(小説文) 13問(小問数32)

◆今年度の問題の種類
・記述 約38%
・選択肢 約46%
・抜き出し 約0%
・漢字 約8%
・語彙の書き取り 約8%

という割合になっています。
記述問題が13問中5問の出題となっており、去年より1問減っています。
とはいえ、例年5問〜6問で推移しているので、「例年通り」といって良いと思います。

2025年度は虐待の疑いがある4歳の子が通う保育園に、職業体験に行く中学2年生の男の子が主人公の小説文の出題となっています。
テーマが少々難しいからか、合格者平均点は70点台になり、2024年度よりも7点ほど下がりました。

ここからは2025年度の駒場東邦中の出題を通して、どのような戦術で取り組んでいけばよいかを検討していきたいと思います。

○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題

「天使のにもつ」いとうみく

問1 漢字 ○

1臓器 2成犬 3軽度 4荷 5晩 6連行 7路地 8印象 9誤作動 10案外 11【出題なし】 12痛 13準備 14余計 15加減
出題なしとなった漢字は「鋭(く)」です。中学校の範囲の漢字であることが原因で、設問のカットがあったと考えられます。
「小学校の範囲内で出題したい」という学校側の気持ちが見て取れ、個人的に好印象です。

問2 気持ちの記述 ○

傍線部①「オレは……。」とあるが、この言葉に続く「風汰の思い」を書く問題です。
「風汰の思いが記されている箇所を探し」という条件があるので、本文からそれを探します。
傍線部の前を見ると、

「そうだよ、犬を捨てる人間もいるけど、守ろうとする人間も少なくないんだよ。きみもそうだろ」

オレ(風汰)は、獣医に「犬を守ろうとする人間」として扱われています。
傍線部の後を見ると、

――守ろうとする人間も少なくないんだよ。きみもそうだろ。
違う。そんなんじゃない。守るなんて考えてたわけじゃない。ただ段ボールの中に置いていけなかっただけだ。できもしないのに、犬のことなんてなんにもわかってないのに、自分で飼うことだってできもしないのに、無責任につれてきただけだ。それで病気にまでして。
結局、チビのためにしてやれたことなんて、なんにもなかった。

【①チビを守るとは考えていなかった】「自分では何もできなかった」→【②無力な人間】【③無責任につれてきただけ】などが拾えます。
①〜③を組み合わせて、
【チビを守るとは考えられない、無責任で無力な人間だ。】としました。

問3 選択肢 ○

傍線部②「胃袋と心は比例するんだ」とあるが、どういうことなのか言い換える問題です。
傍線部の前を見ると、

「メシ食おう」
腹が減ってるからこんなことばっかり考えちゃうんだ。
いつだったか誰かが、胃袋と心は比例するんだって言ってたことを思い出して冷蔵庫を開けた。

「こんなことばっかり考えちゃう」から、「こんなこと」が指すのはマイナスの内容です。
傍線部の後を見ると、

オムレツとサラダ、食パン三枚を腹におさめると、本当に気持ちが落ち着いた。チビのことも、なんやかやいっても、あの獣医につなげたのは自分のお手柄だったような気すらしてきた。

お腹が減っている状態を解消すること(食事をすること)で、「こんなことばっかり考えちゃう」問題は解決できたようです。
よって、「胃袋と心は比例するんだ」が表すのは【空腹の状態だとマイナスのことを考えてしまう】【胃袋が満たされれば心もプラスの方向に進む】ということです。
どちらも満たしているのはウです。

問4 穴埋め ○

空欄A・空欄Dに共通して当てはまる漢字一字を書く問題です。
【 A 】が上がっている、【 D 】を飲み込む に当てはまるのは【 息 】です。

易しい問題だと思います。

問5 選択肢 B○・D△

波線部B「おせっかいな人」と波線部C「目を凝らしている」の本文中の意味について答える問題です。
波線部Bの前を見ると、

団地でもときどき朝になっても廊下や階段に電気がついているときがある。〜それでも、学校から帰ってくるときまでつけっぱなしになっていることはない。誰かが、ちゃんと手動で電気を消す。団地には、おせっかいな人が多いから。

おせっかいな人が多いおかげで、電気がつけっぱなしになることはないということを示しています。
答えはオです。
波線部Cの前を見ると、

〜いつもならお昼寝が終わって、騒がしくなる時間だけれど、今日はやたらと静かだ。門の外から目を凝らしていると、「休みなんじゃね?」と、まーくんセンパイは自転車に座ったまま言った。

門の外から門の中を「目を凝らして」見ているので、ア「じっと見ている」の他、エ「様子をうかがっている」も選ぶ子が多そうです。

答えはア「じっと見ている」です。「凝らしている」という表現から「凝視」などの熟語が作れるかどうかが勝負の分かれ目になったのではないかと思います。

問6 選択肢 △

傍線部③「あたしたちの●●なの」の●●に入る言葉を答える問題です。
傍線部の前を見ると、

「住所は園児の個人情報だからね」
コジンジョウホウ?
「オレ、そんな難しいこと言ってるわけじゃ」
風汰がいうと、林田はふっと笑った。
「園児の住所とか電話番号とか家族構成とか、そういうことは言っちゃいけないって決まりがあるの。あたしたちの●●なの」

住所は個人情報であるため、教えられないと風汰は林田先生から言われています。
保育園の先生という立場も合わせて考えると、●●に入りそうなのは「ルール」「規則」などでしょうか。
「ルール」「規則」はア〜オの中にありません。

入りそうな候補としては「ア 仕事」「エ 義務」「オ 信念」あたりでしょうか。
この中で「規則」といった言葉に最も近いのは「人がそれぞれの立場に応じてしなければならない/してはいけない」という意味を持つ【エ 義務】になります。
「職業や業務として行うこと」である「ア 仕事」を選んでしまった子が多そうです。

問7 気持ちの記述 ○

傍線部④「大丈夫なんだ。きっときっと、大丈夫だ」のときの風汰の気持ちを答える問題です。
傍線部の前を見ると、

「斗羽くんが気になることってなに?」
あらためて問われると、どう言えばいいのか戸惑う。
言葉にしたら、それが現実になってしまう気がして怖い。口にしたくない。しおん君はいまここにいる。いつも通り笑ってここにいる。
大丈夫なんだ。きっときっと、大丈夫だ。

風汰が気になることを【①口にすると、口にしたことが現実になってしまう気がして】【②口にしたくないし怖い。】
また、しおん君はいつも通り笑ってここにいると言っています。
【③「大丈夫なんだ」】というセリフは【④「いつも通りの姿を見せるしおん君」を見て「安心したい」】という気持ちの表れと見て良いでしょう。
傍線部の後を見ると、

「斗羽君、心配しているんじゃない?」
「えっ?」
「虐待、とか」
〜「……オレわかんねーけど、虐待とかそういうの。そうじゃなくて、そういうんじゃなくて。でも、大事にされてんのかなって、ちゃんとあいつ」

【⑤しおん君が母親に大事にされているか】が風汰にとっての「気になること」です。

①〜⑤をまとめて、

【しおん君が母親に大事にされていないと口にして、それが現実になってしまうのが怖く、しおん君のいつも通りの姿を見て、大丈夫と口にすることで、安心したい気持ち。】としました。
本文を加工すればそれなりの答案が作れそうですが、要素の漏れがありそうな設問です。

問8 記述 ○

傍線部⑤「あそばせてあげたいんだよね、しおん君にもああやって、思いっきり泥んこになって」とあるが、林田はしおん君にどうなって欲しいと思っていますか。
ちょっと珍しいタイプの設問です。
傍線部に「しおん君に泥んこになってあそばせてあげたい」とあるのに、「林田はしおんくんにどうなってほしいと思っているか」を問うています。
これは、「しおん君が泥んこになって遊ぶ」を「行動」と見て、「そこに至るまでの心情を書く問」と判断して良いでしょう。
傍線部の後を見ると、

「心とからだが解放されないと、泥んこあそびってできないから。しおん君は絶対に土にふれないようとしない。お母さんが汚れることを嫌うから。園で服を貸してあげるっていってもダメ。お母さんに嫌われることは、したくないんだよね」
「……」
「でも、させるよ。泥んこになってあそべるようにする。いつか、絶対」

ゴールは「泥んこ遊びをさせること」なので、否定された本文の表現を「裏返し」ます。
心とからだが解放されない→【①心とからだが解放される】
お母さんに嫌われることはしたくない→【②お母さんに嫌われる不安からの解放】
また、【③泥んこになってあそぶ】ときの気持ちを検討すると、【④楽しむ】あたりが適切でしょうか。
①〜④をまとめて、
【お母さんに嫌われる不安から、心とからだを解放して、泥んこ遊びを楽しんでほしい。】としました。

設問は少々特殊ですが、本文の加工で△以上は取れそうな問です。

問9 選択肢 △

傍線部⑥「布団の上にのっていいの? いけないの?」とあるが、この前後のお母さんの振る舞いを踏まえてお母さんの言葉について答える問題です。
傍線部の前を見ると、

しおん君が重ねてある布団の上にのって、ひまわりマークの布団を引っ張る。
ひまわりは、しおん君のマークだ。
お母さんは表情を変えずにしおん君のところまで行くと、ぴしゃっと足を叩いた。

重ねてある布団=整頓された布団 と判断して良いと思います。
整頓された布団の上に乗り、自分の布団を引っ張り出したら、しおん君はお母さんに叩かれたというのがわかります。
傍線部の後を見ると、

「布団の上にのっていいの? いけないの?」
しおん君はびくっと硬直して、あわてて布団から下りる。「これ」と、ひまわりマークの布団を指さすしおん君を一度見て、お母さんは周りの布団を整えはじめた。
「どうしていつも余計なことばっかり」
〜「こういうことはきちんとしないと。あの子はなにをやらせてもいい加減なんです。面倒なことばかりするんです」

お母さんの「のっていいの? いけないの?」という言葉の後にしおん君はあわてて布団から下りています。
整頓した布団の上に乗るという行動に対して注意しています。
母親としてきちんとした子供に育てたいというより、「迷惑をかける自分の子どもを叱っている」という面が読み取れるかが勝負どころです。
小学生以上であれば一度は体験したことがあると思いますが、「布団にのって良いかいけないか」を聞いているのではなく、「布団にのってはいけないことを母はわからせたい」と気付かないと解くのは難しいでしょう。
答えはイです。

問10 言い換えの記述 ○

傍線部⑦「だけど、ううん、だからそのうそは、誰かがちゃんと見つけてあげなきゃいけない」がどういうことかについて、本文に即して具体的に言い換える問題です。
傍線部の前より、

あいつは、しおん君はうそつきだ。お母さんが好きで、笑った顔が見たくって、愛されたくて、嫌われたくなくて、困らせたくなくて、そばにいてほしくて。
だから、笑ってる。寂しくても、悲しくても、好きなあそびができなくても、平気だよって笑っている。
苦しいほど素直で、正直で、うそつきだ。
だけど、ううん、だからそのうそは、誰かがちゃんと見つけてあげなきゃいけない。

傍線部の「そのうそ」の中身は【①お母さんが好きで、笑った顔が見たくって、愛されたくて、嫌われたくなくて、困らせたくなくて、そばにいてほしいから、】【②寂しくても、悲しくても、好きなあそびができなくても、平気だよって笑っていること】です。
本当にしたいことがあっても、お母さんのことを優先している様子が読み取れます。
あとは「誰かがちゃんと見つけてあげなきゃいけない」を言い換えます。
「本文に即して」と設問にあるので、「素直で、正直で」を使い【③素直に、正直に自分のしたいことをすれば良いと伝える】などとすれば良さそうです。
①〜③をまとめて、
【大好きな母親に愛されたい気持ちから、寂しさや悲しさを隠し平気なふりをして笑うしおん君に気付き、自分のしたいことを正直にすれば良いと誰かが伝えないといけないということ。】としました。
90字以内で過不足なくまとめるのが難しい問です。

問11 気持ちの記述 ×

傍線部⑧「いまできることは、笑って、しおん君が握ってきた小さな手を、しっかり握り返す。それだけだ。」とあるが、このときの風汰のしおん君に対する思いを「それだけだ」という表現に注目して答える問題です。
傍線部の前を見ると、

オレはなんにもしてやれない。なにかしてやれるほど、大人じゃない。なにが正しくて、なにをすることがこいつのためになるのかもわからない。守ってやる力なんてない。
だいたいオレ、アホだし。
でも、いまこの瞬間にしてやれることだったらわかる。
いまできることは、笑って、しおん君が握ってきた小さな手を、しっかり握り返す。それだけだ。

「しおん君に何もしてやれない」というのは問10のような具体的な行動を取る、「母親との関係を取りもつ」などの行動であると考えられます。
「しおん君が握ってきた手をしっかり握り返す」という行動が【信頼に応えること】であると気付かないと解くのが難しい問題です。
問10の内容を圧縮して【母の愛に飢え、自分の気持ちを押し殺しているしおん君に自分では解決策を用意できないが、今だけは信頼に応えたいということ。】としました。
本文で利用できる表現がほとんどなく、差がつく問題にならなそうです。

問12 正誤問題 △

点線部などから読み取れる、それぞれの登場人物の説明を答える問題です。
ア×、イ×、ウ○、エ○、オ○、カ×です。

ア「林田は上下関係に厳しく」
イ「まーくんセンパイは〜面倒になるとすぐに投げ出してしまう飽きっぽい人物」
カ「お母さんは仕事が忙しく効率を優先するあまり」は本文から読み取れない内容となっています。
本文に書かれていないものは×という判定になりますが、2問程度不正解でも問題ないと思います。

問13 選択肢 ×

文章を読んだ5人の本文の解釈について、適当でないものについて答える問題です。
答えはEさんです。
「しおんくんが背負った『天使のにもつ』を肩代わりしてあげようと堅く決意した」が×です。

問11がきちんと答えられたら正解は取れると思いますが、「よくわからなかった」と答える子が多そうです。
物語・小説の「聞こえの良さそうな一般論」を選ぶクセがある子たちは、軒並み不正解……となっていそうですが、この設問が取れていなくても正直問題はないと感じます。

◆まとめ

それまでの設問の解答を利用したり、選択肢の解答が大きなヒントになったりした2024年度と違い、本文の内容をいかに上手に使って答案を作成するかがポイントとなった2025年度。
背景→きっかけ→気持ちなどの「記述を書くときのフレーム」を元に過去問に取り組んでいた子は報われたのではないかと思います。
一方、ここ数年で出題されるようになった「文章を読み終わった子による解釈」の問題は、やもすれば「勘」で答えて正解した子も多かったのではないかと感じます。
来年度もまた新しいタイプの設問が見られるかもしれません。


にほんブログ村にも参加しています。ぜひ下のバナーをワンクリックで応援もお願いします!

関連記事

増田 雄介

この記事を書いたのは...

増田 雄介

圧倒的な指導力、学校別の専門性の高さ、そして面倒見の良さを持つ自律学習サカセルの国語・社会の看板講師。

その驚異的な指導力を武器に、大手集団塾の開成中コースの国語担当や有名個別指導塾のリピート率1位の凄腕講師として活躍。
成績が本当に伸びる実戦的な指導に目を付けた自律学習サカセルからのスカウトを受け、満を持して文系科目の講師として指導開始。

個別指導の業界では指導力No. 1の呼び声も高く、逆転、順当のどちらの合格にも強く、生徒のレベルに関係なく指導できる幅広さを持っている。

生徒だけでなく、自分の子供の成長を見守るのが楽しみな一児の父でもある。
趣味はぽっちゃりの自分でも着られるファッションの構築。

同じ筆者の記事を見る

人気の記事