傾向
ずっと選択問題のみだった慶應中等部ですが4年ほど前から用語を答える問題が、2年前から記述問題が登場するようになりました。といっても出題数は多くありません。
問題文はあまり長くなく、シンプルな出題で時間も25分と短めです。一見簡単そうで時間もかからず解けそうな問題ですが実は奥が深く、厳密に解くのは難しい問題が散らばっています。
よく出題される分野がかなり偏っているので挙げておきます。
・身近な動物…昆虫や魚、動物が多く出題されています。今年はメダカとアメンボが出題されました。
・身近な植物…樹木などが出題されることも多いですが、野菜や果物もよく登場するのが特徴的です。
・身近な水溶液…水溶液の問題は多くの中学校で出題されますが、中等部では牛乳、しょうゆ、果汁など家庭にあるものが登場することが多いです。
・物体の運動…ふりこやコインをぶつける問題などがメインですが、慣性や遠心力を考える問題が出題されたこともあります。
・電流…発光ダイオードやモーター、磁界など色々な形で出題されています。今年は時間のかかるスイッチ回路でした。
・浮力/密度…今年は出題されませんでしたが、密度によるものの浮き沈みはよく出題されています。
・てこ…計算問題はあまり登場していませんが、てこの原理を使って考えるものはよく出ています。
・天体…太陽や星も出ますが、月がとてもよく出題されている上、かなり難度が高めです。
今年も傾向としては例年通りでしたが【4】の電気回路が難問でした。ひとつひとつは標準レベルのスイッチ回路ですが、回路が9つありそれぞれのつなぎ方が4通りあるため、合計36通りを確認しなければなりません。その中からあてはまるものの数を数えるため、かなり時間がかかり、さらにひとつミスをすると時間と労力が無駄になるリスキーな問題でした。【5】もやや難しい月の問題でした。他は取りやすい問題が多く、簡単な問題と難しい問題がはっきりしていたため差がつきにくかったかもしれません。
解説
問題のレベルと種類を問題番号の後に示します。
問題のレベル
〇:絶対に取りたい
△:この中から半分以上は取りたい
×:捨ててもよい
問題の種類
知:知識
考:思考
記:記述
1. 動物
会話のリード文から始まる問題でした。ここ最近、生物ではリード文のある問題が登場しています。
(1) 〇 知
Aは水の中にいて(ア)してから10日くらいで卵から出てきます。生まれてすぐはおなかのふくらみに(イ)が入っているので2~3日は食べなくてもよい
これはメダカのことだとすぐに分かるでしょう。
(1)してから10日後にふ化する、漢字2文字…
思いつくのは「産卵」「受精」あたりだと思います。「産卵」を入れると
A:卵のときから水の中にいて、産卵した卵からは10日くらいして出てくることができたよ
これだとAが産卵した、という風に読めてしまいます。Aは子メダカの設定ですからおかしいでしょう。
A:卵のときから水の中にいて、受精した卵からは10日くらいして…
こちらは成り立ちます。
おなかのふくらみに入っているのは「養分」です。「栄養分」と思った受験生もいたと思いますが、2字指定なので「養分」です。ここで「栄養」と考える受験生もいるかもしれません。これの正誤は中学校側の判断になります。理科の用語としては「養分」が妥当です。
解答 ア 受精 イ 養分
(2)〇 知
(1)に書いたとおり、メダカです。
解答 メダカ
(3)〇 知
「背びれが切れちゃってる」とあるのでオスです。このあたりからもAがメダカであることが確認できます。
解答 1
(4)〇 知
「ずっと水面の上に立っている」とあるのでアメンボです。
解答 1
(5)△ 知(詳しい)
アメンボが水面の上に立っていられる理由。これは知らないと難しいかもしれません。
原理だけで考えて答えを絞れる出題をする学校もありますが、この選択肢は原理的にはどれもおかしくありません。アメンボのあしの先には油のついた細かい毛は生えています。
解答 2
(6)△ 知 考
絶滅しそうな動物にあてはまらない生き物。消去法で選んでいくのが正攻法でしょう。
イリオモテヤマネコ、タガメ、オオサンショウウオ、ライチョウはいずれも絶滅危惧種です。
また、シカが増えすぎて森林を枯らしているなどの話を連想出来るとさらによいでしょう。シカは増えすぎて困っているくらいなので絶滅危惧種ではありません。
解答 2
2. てこ
身近な道具の支点・力点・作用点を考える問題。中学受験では定番ですが、そこから少し差のつく問題ばかりを集めてあります。といっても、慶應中等部を受験するなら「ああ、あれか」と即答できなくてはいけません。
(1)〇 知
力点…力を加えるところ。これは正答率が100%だったかもしれません。
解答 3
(2)〇 考
支点~力点の距離×力点にかける力=支点~作用点の距離×作用点にかかる力
が等しくなります。力点にかける力を小さくするためには、支点~作用点の距離を短くすればよいです。
解答 3
また、経験からはさみは元の方で切った方がラク、と分かるとさらによいです。
(3)〇 知 考
つめ切りは上の(567)の棒と下の(468)のピンセット型の二つのてこが組み合わさっています。テキストに載っているので知っていて解いた受験生がほとんどでしょう。
7の力点に対応する、とあるので上の(567)の棒を考えます。
7:力点 5:支点 6:作用点
解答 6
(4)〇 知 考
4の作用点なので、(468)の下のピンセット型の部分を考えます。
4:作用点 8:支点 6:力点
解答 6
(3)(4)とも答えが6になって少し不安になるかもしれません。しっかり理解している受験生を求めていると考えられます。
3. 二酸化炭素(溶解/状態変化/発生法)
二酸化炭素について3つの方向から出題されています
(1)〇 考
水と二酸化炭素をポリ袋に入れて混ぜると体積はどうなるか。
二酸化炭素が水に溶けて体積は小さくなります。→しぼむ
解答 2
(2)△ 考
ポリ袋の中に空気、ドライアイスの小片を入れて30分後。
これは少し悩みます。ドライアイスが気体になって体積が大きくなるのか、空気が冷やされて体積が小さくなるのか。どちらの影響が大きいのか判断しなくてはいけません。
知っている知識で使えるものは「水が水蒸気になると体積は1700倍」あたりでしょうか。ここから、固体→気体の状態変化をするとかなり体積が大きくなることが予想できればOKです。温度変化による気体の膨張/収縮はあまり大きくはありません。
解答 1
厳密にいうと1℃につき0℃のときの体積の1/273の体積変化ですので。仮に10℃くらい下がったとすると3.35mⅬくらい(※細かい計算は省略)収縮します。
それに対して状態変化では仮にドライアイスの小片が1㎤だとして1700㎤(mⅬ)になるので断然大きくなります。
もちろんこんな計算が出来なくてもよいです。ざっくりと温度による膨張/収縮の体積変化より、状態の体積変化の方が大きいと分かっていればOKです。
また大問3が二酸化炭素に関する問題だと気づけば、惑わされないかもしれません。
(3)〇 知
気体が発生する組み合わせを選ぶ問題。
重そう+酸性の水溶液で二酸化炭素が発生することは知っておきましょう。
解答 4
4. 電気回路
今年はここが大変でした。正確に解くためには15分くらいかかりそうです。他を素早く確実に解いてから戻ってきて、じっくり取り組むという作戦がよいでしょう。
(1) (ア)× (イ)× (ウ)△ 考
(ア)(イ)が難問です。スイッチの組み合わせによる豆電球のつき方をかき出してしまいましょう。
切り替えスイッチにa~dと名前をつけ、ひとつずつ切り替えて調べていきます。
点灯する豆電球の数は
A a-c 2 a-d 0 b-d 3 b-c 0
B a-c 1 a-d 0 b-d 2 b-c 0
C a-c 2 a-d 0 b-d 2 b-c 0
D a-c 2 a-d 0 b-d 1 b-c 0
E a-c 2 a-d 0 b-d 2 b-c 0
F a-c 2 a-d 0 b-d 3 b-c 3
G a-c 1 a-d 0 b-d 2 b-c 3
H a-c 2 a-d 1 b-d 2 b-c 3
I a-c 3 a-d 0 b-d 1 b-c 3
(ア)豆電球が少なくとも1個点灯するもの。Hのみ
解答 1
(イ)切り替えるたびに点灯する豆電球の数か変わるもの。
A,B,C,D,E,G,H
Fはb-c 3個→b-d 3個
Iはb-c 3個→a-c 3個。
切り替えても点灯する豆電球の数が変化しないところがあります。Iのように4番目から1番目の組み合わせまで確認しなくてはいけないのが大変です。
解答 7
(ウ)すべての電池に一筆書きで電流が通る回路を探します。(ア)(イ)に比べれば探しやすいのでここだけでも取れるとよいでしょう。
Bのb-d、Fのb-c、Gのb-d、Hのb-c、Iのb-c
解答 5
(2)△ 考
スイッチによって電流の向きが変わる豆電球を探します。AやBの右側やCのように電池のすぐそばにある豆電球の電流の向きは変えられませんから、Aの真ん中のようなところを確認していきます。
Aのa-cとb-d、Eのa-cとb-d
解答 2
5. 月
(1)〇 知
日食と月食の位置関係。これは絶対に覚えておくべき知識問題です。
日食は 太陽・月・地球
月食は 太陽・地球・月
解答 日食 1 月食 2
(2)△ 考
月食が見えたときの高度。これは難しい問題です。
使うのは 月食、5/26、20:10~20:25 という情報です。
まず、いちばん考えやすいのは20時過ぎ、という情報。満月は真夜中に南中しますから南中より3時間ほど早い→南中したときの高度よりかなり低いことが分かります。この時点で3の60~90度は消えます。
次に南中高度を考えます。南中高度が70度くらいなら2の30~60度、南中高度が40度くらいなら1の0~30度になるはずです。
月食ということから、この日の月は満月です。満月の高度は夏に低く、冬に高くなります。(サピックスでは夏期のテキストで登場します。予習シリーズには載っていませんので、各塾の先生が授業で入れたり入れなかったりしている、上位生向けの内容です)
(北半球では)夏に太陽が高く、冬に低くなるのは地軸の傾きによります。地軸(の上部)が太陽の方に傾いていると太陽は高くなります。これを満月に当てはめると、冬に地軸が太陽の方に傾くため、冬の満月が高く見えます。
簡単な図を入れておきます。
5/26ですので夏至の一か月前くらいの満月→南中高度は低めです。
夏至の日の満月の南中高度は冬至の日の太陽の南中高度とほぼ同じと考えて
90-55-23.4=31.6 ※この土地の北緯は書いてありませんが、港区とあるので大体で出します。
その3時間ほど前なので1の0~30度と判断できます。
解答 1
実際に解くときは、5月の満月だから南中高度低め、かつ20時頃なのでさらに低い→1 でよいです。
(3)△ 考 記
東京や仙台では欠け始めから観察できたが札幌や福岡、那覇では観察できなかった。
札幌がなければ難しくありません。福岡や那覇など、西の地域で観察できなかったのは西の方が月の出が遅いから、欠け始めにはまだ月が出ていなかったのでは?と考えられます。答えもこれでよいです。
解答 まだ月が出ていなかったから
実際、正解者は札幌のことは分からないけど、これ以外書けないから書いておこう、と答えた受験生がほとんどではないでしょうか。札幌を読み飛ばして正解した子もいるかもしれません。
札幌は東京よりも東にあります。普通に考えると札幌の方が月の出は早そうです。なぜ札幌の月の出が東京より遅いのか解説します。
昼の長さは夏:北ほど長くなる
冬:北ほど短くなる
は中学受験ではよく登場します。これを使います。(2)で月の南中高度が低いことが登場しています。月の南中高度が低いということは出ている時間も短くなります。冬に太陽が出ている時間に対応させることが出来ると考えられます。
月が低い時期
→月が出ている時間が短い
→北(札幌)の方がより月が出ている時間が短くなる
→札幌は月の出が遅い
となるのです。
札幌の満月の南中高度(夏至)を求めて 90-43-23.4=23.6(度) 低いので出ている時間も短い、と判断してもよいでしょう。
ざっくり解いてもある程度解けるが厳密に解くと難しい、とはじめに述べましたがその典型的な問題です。
とても優秀な子と、ある程度出来る要領の良い子が得点し、真面目で融通の利かないタイプには難しい出題です。
(4)△ 考
月食の欠ける順番を並び変える問題ですが、かなり高度です。左(東)から欠けることは知っていても、問題の図では下が欠けているものが混じっています。
本来は図のように変化していきますが、これは月が南にあるときの図なのです。
20時過ぎに皆既月食ということから欠け始めはもっと早い時刻と考えられます。よって、月は東にあります。南にある左が欠けた月を東に動かすと図のようになります。
よって
解答 3→1→5→4→2
皆既月食後の月はだいぶ高い位置(南)にあるので横が欠けている、ということになります。
(5)〇 知
最後に簡単な問題がきました。
金環日食は月と地球の距離が大きいときに起こります。
これは知っているでしょう。2つ選ぶのでそれと同様の位置関係になるものを選びます。
解答 2、3
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