◆各種データ
合格最低点 113/200(56.5%)
合格最高点 158/200(79.0%)
国語想定合格ライン 36/60
◆出題形式
試験時間60分 60点満点
◆大問1題構成
文学的文章(小説文) 約16~19問
◆今年度の問題の種類
・記述 約75%
・選択肢 約15%
・抜き出し 約0%
・漢字 約10%
という割合になっています。
抜き出しの出題はなし。
それもあってか、選択肢問題が3問になっています。
ここからは2022年度の麻布中の出題を通して、どのような戦術で取り組んでいけばよいかを検討していきたいと思います。
今回使用する指標
○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題
「氷柱の声」くどうれいん
問1漢字 ○
「自負」に少し悩むかもしれませんが、ここは確実に得点したい問題と言えます。
問2理由の記述 △〜○
私が「大丈夫大丈夫」と独り言を繰り返した理由を答える問題です。
傍線部①と同じ文をチェックすると、「揺れが収まった後もしばらくどきどきして、」とあります。ということは、「揺れ」が「きっかけ」と見ることができます。
「揺れ」の説明をしているのは、
29行目「あまりにも普通ではない揺れ」
です。
25行目には「二〇一一年三月十一日」
とあります…例の大地震です。
30行目の「頭では必死に冷静なことを思っても、鼓動が耳のそばでばくばくと聞こえた」
31行目の「『大丈夫大丈夫』と独り言を繰り返した」
の2つから、
背景:家で一人でいるときに大地震が発生し、
きっかけ:ただ事ではない揺れから恐怖や不安に駆られていたが、
意味付け:「大丈夫」と口に出すことで、
気持ち:そういった気持ちを鎮めたかったから。
としました。
指示語を入れているので、抵抗感がある生徒さんもいるかもしれません。ただ、きちんと中身が入っていれば、指示語は記述の答案に採用して良いものです。
低学年時の大手塾のテキストや約束事に、翻弄されすぎないようにしましょう。
問3気持ちの記述 ○
「うそじゃん。と声が出た」ときの私の気持ちを答える問題です。
傍線部②のきっかけをチェックすると、直前に「すぐにテレビをつけると〜真っ黒い波がいくつもの家を飲み込む映像だった」とあります。
傍線部②「うそじゃん〜」は行動なので、気持ちの表現に置き換えます。
【信じられない】【現実とは思えない】などに置き換えられれば十分でしょう。
背景:巨大な津波がいくつもの家を飲み込む
きっかけ:衝撃的なテレビの映像を見て、
意味付け:現実で起こっていることとは思えず、
気持ち:にわかに信じがたい気持ち。
問4選択肢 ○
「自分のからだの中に一本の太い線を流すような、絵のなかの音を描き出すような、豪快で、繊細な不動の滝で、必ず賞を獲りたい。獲る」と言った時の私の気持ちを答える問題です。
56行目〜65行目の段落のところをチェックして、×ポイントを見つけるのが良いでしょう。
ア:優しい滝の絵→「豪快で」の部分がない
ウ:その現実を忘れさせてくれるような幻想的な絵→「幻想的」は書かれていない
エ:〜恐ろしい体験〜それが相手に伝わるような激しい滝の絵→「恐ろしさが相手に伝わるような」は書かれていない
から判断しましょう。
答えはイです。
問5選択肢 ○
「…描いたほうがいいですか」という態度を私が示す理由を答える問題です。
傍線部④の周辺から「私」の様子について拾ってみます。
79行目「絆って、なんなんですかね」
81行目「本当に大変な思いをした人に、ちょっと電気が止まったくらいのわたしが『応援』なんて、なにをすればいいのかわかんないですよ」
91行目「虹や、双葉が芽吹くようなものは、いくらなんでも『希望っぽすぎる』と思ってやめた」
92行目「そもそも、内陸ではほとんど被害を受けていない私が何を描くのもとても失礼な気がした」
あたりから、×ポイントを検討していくのが良いでしょう。
ア:穏やかな題材を描くことに対して、自信が持てなかった
イ:被害を受けなかったからこそ滝の絵を描くことができている自分〜さらに新たな絵を描いてもよいのか
エ:教師がテーマの決まった絵を描かせようとすることに怒りを感じた
→3つともに言えますが、立場の違う自分が『応援』することに自信がないのです。
答えはウ。
問6理由の記述 △
記者の筆が進まない理由を答える問題です。
102行目「この人たちは、絵ではなくて、被災地に向けてメッセージを届けようとする高校生によろこんでいるんだ」
105行目「期待を湛えてこちらを見ている」
のが背景。
それに対して、
106行目「申し訳ない、というきもちです。わたしはすこしライフラインが止まったくらいで、たくさんのものを失った人に対して、絆なんて、がんばろうなんて、言えないです」
という【消極的な返答】がきっかけです。
傍線部⑥108行目「しばらくペンを親指の腹と人差し指の腹でくにくに触り」
とは、「メモを取らず、何もしないままでいる」ことです。
意味付けの部分で、【このままでは記事にはできない】と「困惑」を補強する説明が入れられると良いと思います。
背景:被災地に向けた前向きなメッセージを期待をしたが、
きっかけ:消極的な返答をされたことで、
意味付け:このままでは記事にできないと
気持ち:困惑したから。
問7言い換えの記述 △〜○
私はこの絵について、どのような点をほめてほしかったのか堪える問題です。
傍線部⑦「私はこの絵を見た人に、そう言われたかったのだ。」
とあるので、「そう」の中身を確認すると、
118行目「このさ、見上げるような構図。木のてっぺんから地面まで平等に、花が降っているところがすごい迫力なんだよね。光の線も、やりすぎじゃないのにちゃんと光として見える。控えめなのに力強くてさ。伊智花の絵はすごいよ。すごい」
となります。
ここと共通する内容に、
100行目「枝葉のディテールや、影の描き方や、見上げるような構図〜」
とあります。
少し抽象化して、【細かな描写や見上げるような構図】としました。
この2つを使って書くのがオススメです。
【細かな描写や見上げるような構図などの、絵を描く際に工夫した点。】
具体→抽象の順で書いています。
問8(1)理由の記述 ○
ニセアカシアの絵のことを考えるとからだも頭も重くなる理由を答える問題です。
これはニセアカシアの絵のことで、嫌な思い出があるからですね…。
問6が参考になると思います。
「他の問題を利用して書く」という麻布の典型題となっています。
背景:自分の絵ではなく、被災地に向けてのメッセージが評価されることに対して
きっかけ:失望したことを思い出して、
気持ち:ゆううつになるから。
問8(2)言い換えの記述 △
ニセアカシアの絵のことを考えるとからだも頭も重くなるときの私にとって、滝の絵に没頭することはどのような意味があるか答える問題です。
131行目「筆を重ねるごとに、それはほとばしる怒りであるような心地がした」
132行目「この心につかえる黒い靄をすべて押し流すように、〜描き足した」
先ほどの問8(1)を利用すると書きやすいでしょう。
【ニセアカシアの絵の世間の評価に対する失望や怒りを心から押し流し、忘れるという意味。】
「黒い靄」の置き換えに気付けるかどうかで、点数に差が出そうです。
問9言い換えの記述 △
彼女と私とはどのような点で重なっているのか書く問題です。
彼女の言葉を拾ってみると、
147行目「絵を描いている間、わたしはわたしの内側にあるきもちと対話をすることができました」
148行目「暗いがれきの中で泣いて、怒って、悲しんでいたはずの、どこに向かえばよいかわからなくなっていたわたしは〜」
問8(2)は滝の絵に没頭していたときのわたしのことが書いてありました。
共通点を考え、起こった順(時系列順)に並べて、
【自分が感じていた怒りや悲しみとどのように折り合いをつければ良いかわからずにいたが、絵を描いて自分の気持ちと向き合った点。】
としました。
問10理由の記述 △〜×
私の滝の絵が賞を獲れなかった理由を堪える問題です。
177行目に「さっき榊が言っていた言葉を何度も頭の中で繰り返した」
とあるので、榊の言葉からマイナスの内容をチェックします。すると、
169行目に「CGみてえな絵だな、これ、リアリティがよ。〜」
抽象化して【写実的に描かれている】
171行目に「〜ちょっと、今このご時世で水がドーンっと押し寄せてきて、おまけにタイトルが『怒濤』ってのは、ちょっときつすぎる〜」
【水が押し寄せる】【タイトルが『怒濤』】【津波を連想させる】【世間の風潮にそぐわない】などの各要素を文にして、
【水が押し寄せる様子を写実的に描いている上、タイトルが「怒濤」であることから、津波を連想させ、世間の風潮にそぐわないものであったから。】
としました。
【世間の風潮にそぐわない】まで書けていたらお見事、というところでしょうか。
【津波を連想させる】まで書けたかどうかが、得点の分かれ目になっていそうです。
問11選択肢 ○
「『この絵を見て元気が湧いたり、明るい気持ちになって、頑張ろうって思ってもらえたらうれしいです』と、小さく声に出して言」ったときの私の気持ちについて答える問題です。
185行目「蹴とばそう、と思った」
これは『この絵を見て元気が湧いたり、明るい気持ちになって、頑張ろうって思ってもらえたらうれしいです』という【皆が期待するような反応をすること】に対して、【反発する気持ち】でいるわけです。
ここから、×のポイントを探します。
イ:自分はもともと絵で誰かを元気づけたかった
ウ:自分が受賞できた時のことを具体的に思い浮かべている
エ:これからは人に評価される絵を描こうと固く心に決めている
がそれぞれ×。
答えはアです。
問12(1)変化の記述 △〜×
私は震災を経た後に、滝の絵をどのような思いで描くようになっていたかを2つの段階にわけて書く問です。
変化前 → きっかけ → 変化後
背景→きっかけ→気持ち → きっかけ → 意味付け→気持ち
と当てはめてみると書きやすいと思います。
背景:高校時代の集大成として
きっかけ:滝の絵を描き、
気持ち:賞を獲ろうと意気込んでいたが、
きっかけ:ニセアカシアの絵に対する失望や怒りを経て、
意味付け:余計なことは考えず、絵以外のことを評価する世間に対しての
気持ち:失望や怒りを心から押し流し、忘れようという思い。
としました。
問8(1)(2)を利用して書いています。
ここまでの内容を丁寧に読み進められていれば書けそうですが、この問題単発で解答するのは難しいと思います。
問12(2)言い換えの記述 ×
「ひとりきり、私は私の滝を抱きしめていた」とはどのようなことを表しているか答える問題です。
186行目「しかし、私は絵を蹴ることはできなかった」より、
絵=「私の滝」、蹴る=「否定する」から
【他人から評価されなかった自分の作品】【自分が全力で描いたものを否定することができなかった】
「私は〜抱きしめていた」は【自分の絵を愛そうと考えた】
「ひとりきり」は【自分だけでも】として、
【他人から評価されなかった、自分の全力を尽くして描いた作品を否定せず、自分だけでも、自分の作品を愛そうと考えたということ。】
としました。
きちんと全ての要素を言い換えるのは難しいので、部分点狙いで良いでしょう。
◆まとめ
今年は「他問題を利用できる設問」「言い換え問題」が多かったという印象です。
また、こちらの『氷柱の声』は海城中でも出題されました。
最後の2問が目立ちますが、ここがろくに書けなかったとしても、
それまでの問題で点数が作れているかが大切、というのは例年通りです。
努力を認めてくれる形式なのは変わらず…というところに、学校側からの愛を感じます。
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