◆各種データ
合格最低点 105/200(50.25%)
合格最高点 157/200(78.5%)
国語想定合格ライン 36/60
◆出題形式
試験時間60分 60点満点
◆大問1題構成
文学的文章(小説文) 14問(小問数17)
◆今年度の問題の種類
・記述 約65%
・選択肢 約21%
・抜き出し 約7%
・漢字 約7%
という割合になっています。
2022年度に引き続き、選択肢問題が3問になっています。
ここからは2023年度の麻布中の出題を通して、どのような戦術で取り組んでいけばよいかを検討していきたいと思います。
解答例はコチラ
今回使用する指標
○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題
「タイムマシンに乗れないぼくたち」寺地はるな
問1漢字 ○
「包装」「操縦」は少々難しく感じるかもしれませんが、確実に得点したい問題です。
問2選択肢 ◯
傍線部①「文ちゃんのことを考えると、今でも手足がぐったりと重くなる」理由を答える問題です。
傍線部の前を見ると、
「草児の友達の文ちゃんに至っては、自分の家みたいに何も言わずに靴を脱いで入ってきていた。」
傍線部の後を見ると、
「文ちゃんとは保育園からの付き合い」
「体がずんぐりと大きかった」
「俺が草児を守ってやる、が口癖」
などある一方で、
「金が足りないなあと言いながら横目でちらちら見られると、〜毎回自分の手の中の百円を差し出してしまうのだった。文ちゃんは例を言うでもなく、それをぶんどっていく」
「何度考えても、草児には文ちゃんに百円を差し出さずに済む方法がわからなかった」
とあります。
【保育園からの付き合いで、自分の家のように草児の家に入ってくる一方で、】
【おこづかいをいつも自分に提供するように仕向けてきて、】
【それを拒めない様子】
の3つの内容が盛り込まれているものを選びましょう。
正解はイです。
問3選択肢 ◯
傍線部②「そう思うことで、むしろ草児の心はなぐさめられる」理由を答える問題です。
傍線部の前を見ると、
「強いものと弱いもの。頭の良いものと良くないもの。教室には異なる種の生物が共存している」
「力の関係は状況に応じて微妙に変化し、ぎりぎりのところで均衡をたもつ」
「転校してくる前の草児が、そんなふうに考えたことは一度もなかった。〜今は違う。世界と自分とがくっきりと隔てられている。」
傍線部の後を見ると、
「自分はこの学校になじめないのではなくて、ただ博物館で展示物を見ているように透明の仕切りごしに彼らを観察しているだけ、というポーズでどうにか顔を上げていられる」
とあります。
【能力の差がある人が共存する教室で、自分だけが距離を置かれている】
【そんな状況を透明な仕切りごしに観察していると考えることで、】
【自分がこの教室になじめない事実を意識せずにいられる】の3つの内容が盛り込まれているものを選びましょう。
正解はウです。
問4言い換えの記述 ○
傍線部③「草児は自分が『食べる側』になれるとは、どうしても思えない」とあるが、教室において「食べる側」とはどのような人たちかについて答える問題です。
問3の根拠をチェックした際にあった
「強いものと弱いもの。頭の良いものと良くないもの。教室には異なる種の生物が共存している」
「力の関係は状況に応じて微妙に変化し、ぎりぎりのところで均衡をたもつ」
がヒントになります。
傍線部の前を見ると、
「来年、草児は中学生になる」
「生存競争はさらに激しくなっていきました」
傍線部の後を見ると、
「勉強も運動も、できないわけではないが突出してできるわけではない。クラスにもなじめていない。「ありがとう」と言っただけで、岩かなにかが喋ったみたいにびっくりされているのだから」
とあります。
教室内の「食べる側」という表現から、「力を持つ立場の者」と置き換えられるかがポイントでした。
「スクールカースト」などをテーマにした作品は近年増えていますね。
【勉強や運動で突出した能力を持ち、クラス内で力を持つ立場の人たち。】を解答としました。
問5記述 ◯
傍線部④「味がぜんぜんわからなかった。給食もそうだ。甘いとも辛いとも感じない」とあるが、草児が「味がぜんぜんわからな」くなっているのは、家や学校でどのような状況にあるからか答える問題です。
こちらの問題、本来であれば「草児が「味がぜんぜんわからな」くなっているのはなぜですか」でも良いはず。
「家や学校の状況」を聞くことで、少しだけ易しくなっています。
傍線部の前より、
「同じ家の中にいても、ほとんど言葉を交わさない。母や祖母の気配だけを感じつつ、ひとりで食卓に置かれたパンや釜めしを食べた」
傍線部の後より、
「誰かと同じ空間にいても、人間は簡単に「ひとり」になるものだと、こんなふうになるずっと前から知っていた。」
「こんなふうになるずっと前」はおそらく学校での話なのでしょう。ここを、「本文で引用されていない箇所」と類推してほしくなくて、一段階易しい問題になったのではないかと思います。
一行で答える問題となっているので、家と学校の状況の共通点を取り、
【家でも学校でも言葉を交わす相手のいない孤独な状況。】を解答としました。
問6抜き出し ○
傍線部⑤「鞄から、つぎつぎとお菓子が取り出される」とあるが、男はお菓子をどのようなものととらえているかについて答える問題です。
「男」が「お菓子」について語っている箇所を探すと、傍線部の後から、
「だからお菓子というものは自分の精神的な命綱のようなものだと思ったのだ、というようなことをのんびりと語る男に手招きされて、草児もベンチに座った。」
というのが見つかります。
どのようなものとあるので、文末が名詞となっているところを語尾に、条件に合うものを探すと、
【自分の精神的な命綱のようなもの】が正解となります。
問7選択肢 ◯
傍線部⑥「どうして泣いているのか自分でもよくわからなかった」とあるが、ここで草児は泣くことによってどのようなことに気づいていくのか答える問題です。
これも「どのようなことに気づいていくのか」と聞いているので、傍線部の後をチェックする必要があると暗に学校側からヒントとして示しているように感じます。
傍線部の後より、
「どうしても文ちゃんに嫌だと言えなかったこと」
「嫌だと言えない自分が恥ずかしかったこと」
「別れを告げずに引っ越ししてしまったこと」
「父が手紙をくれないこと」
「自分もなにを書いていいのかよくわからないこと」
「今日も学校で、誰とも口をきかなかったこと」
「母がいつも家にいないこと」
「祖母から好かれているのか嫌われているのかよくわからないこと」
「いつも自分はここにいていいんだろうかと感じること」
とあります。
【文ちゃんをはじめとした「学校の友人」】
【父・母・祖母をはじめとした「家族」の間で、】
【「自分はここにいていいのか」と感じている】
という3つについて触れているものを選びましょう。
正解はエです。
この問は、文章全体を読み解く上での重要なヒントとなります。
問8理由の記述 ◯
傍線部⑦「あと、もっと前の時代のいろんな生きものにも、いっぱい、いっぱい興味がある」とあるが、草児が特に「エディアカラ紀」という時代に興味がある理由を答える問題です。
これも、設問で「エディアカラ紀」に注目させているため、少し易しく感じます。
傍線部の後より、
「エディアカラ紀〜とつぜんさまざまなかたちの生物が出現しました」
「獲物をおそうこともありませんでした」
「エディアカラ紀の生物には、食べたり食べられたりする関係はありませんでした」
「草児は、そういう時代のそういうものとして生まれたかった。同級生に百円をたかられたり、喋っただけで奇異な目で見られたり、こっちはこっちでどう見られているか気にしたり、そんなんじゃなく、静かな海の底の砂の上で静かに生きているだけの生物として生まれたかった」
とあります。
「エディアカラ紀の生物には、食べたり食べられたりする関係はない」
「同級生に嫌な思いをさせられて、学校での人間関係に悩んでいる」
「そういった環境がないところで、静かに生きていきたい」の3点を盛り込み、
設問の「興味がある」を【魅力を感じる】と言い換えて、
【家や学校での人間関係に悩み、嫌な思いをさせられている草児にとって、生物同士で食べたり食べられたりする関係がなく、静かに生きていける環境に魅力を感じるから。】
を解答としました。
問9理由の記述 △
傍線部⑧「他の大人の前では言わない続きが、するりと口から出た」の理由を答える問題です。
「他の大人」と違った点や特徴をおさえる必要があります。
問7・8が参考になる点は多いでしょう。
傍線部の前より、
「男は泣いている草児を見ておどろいた様子はなく、困惑するでもなく、かといって慰めようとするでもなかった。ただ「いろいろ、あるよね」とだけ、言った」
「いろいろ、と言った男は、けれども、草児の「いろいろ」をくわしく聞きだそうとはしなかった」
「〜質問を重ねる男は、草児がいつもいるとわかるほど、頻繁に博物館を訪れているのだ」
とあります。
「泣いている草児を見て、草児の「いろいろ」を詳しく聞き出そうとしなかった」
「頻繁に博物館を訪れている」(→【他の人間にはない魅力】と置き換えています)
「他の大人の前では言わない続きが、するりと口から出た」(→【安心感を覚えたから】と気持ちを設定しています)の3つを盛り込んで、
【突然涙を流しても、男は理由を聞かずに受け入れてくれていると感じられ、他の人間にはない魅力に安心感を覚えたから。】を解答としました。
問10言い換えの記述 ◯
「タイムマシン」で過去へ旅をする想像と、その後の「男」との会話を通して、草児はどのようなことに気づいたかについて答える問題です。
問5・8と同様に、設問に「しっかりとした誘導」が載っています。
傍線部の後より、
「「戻ってきたいの?」そりゃあ、と言いかけて、自分でもよくわからなくなる。」
「だって、えっと……戻ってこなかったら、心配するだろうから」
「草ちゃんがどこにでも行けるように、と母は言ってくれるが、タイムマシンで原生代に行って二度と帰ってこなかったら、きっと泣くだろう。」
とあります。
ここから、
「〜母は〜、タイムマシンで原生代に行って二度と帰ってこなかったら、きっと泣くだろう」
を利用して、
【自分が二度と帰らないとなったら、心配して泣くであろう母親がいるという事実に気が付いたこと。】を解答としました。
問11気持ちの記述 △
傍線部⑩「誰かと並んで立つ体育館の床は、ほんのすこしだけ、冷たさがましに感じられる」からわかる、草児の気持ちを答える問題です。
傍線部の前より、
「恐竜、好きなの?」
「うん」
「ぼくも」
傍線部の後より、
「体育館の靴箱の前で声をかけてきた男子の名は、杉田くんという。杉田くんは塾とピアノ教室とスイミングに通っているから一緒に遊べるのは火曜日だけだ。そして、教室で話す相手は彼だけだ。それでももう、以前のように透明の板に隔てられているという感じはしなくなった。完全に取っ払われたわけではない。でも、透明のビニールぐらいになった気がしている。その気になればいつだって自力でぶち破れそうな厚さに。」
とあります。
【恐竜が好きという共通点がある】
【杉田くん(設問の「誰か」の正体)と話をするようになった】
【学校で感じていた孤独感(「冷たさ」の正体)は、消えたわけではないが和らいだ(「ましに感じられる」の言い換え)】の3点を盛り込んで、
【杉田くんに話しかけられ、自分と同じく恐竜が好きであると知ったことで、学校で感じていた孤独感が和らいでいる。】を解答としました。
自分で言葉を言い換える分、誘導がしっかり用意されている問よりも難しかったと思います。
問12記述 △
波線部A「ところできみは、なんでいつも博物館にいるの?〜頻繁に博物館を訪れているのだ」、
波線部B「草児が博物館に行く回数は減っていった」をふまえて、「博物館」が草児にとってどのような場所として描かれているかについて答える問題です。
問7より、「自分には居場所がないと感じていること」
問8を利用して、「家でも学校でも人間関係に悩んでいる」という要素を引っ張ってきています。
居場所がないときには頻繁に博物館を訪れています。
問11より、杉田くんと出会ってからは
「博物館に行く回数は減っていった」
ので、【居場所がないと感じていたときに、自分にとって心の拠り所となるような場所】などの答えが導き出せるかが鍵となります。
また、波線部Aの後、波線部Bの前より、
「大人に好きなものについて訊かれたら、かならずそう答えることにしている。嘘ではないが、太古の生物の中でもとりわけ恐竜を好むわけではない。にもかかわらずそう言うのは〜」」
とあるので、「太古の生物が好きであること」がわかります。
また、
「〜仕事をさぼって博物館で現実逃避するくらいがセキノヤマなんだ、おれには」
という、共通点を持つ男のセリフより、【現実逃避】を使っています。
以上を組み合わせて、
【家でも学校でも人間関係に悩んでいる草児にとって、嫌な現実から逃避して、自分の好きな古代の生物のことに没頭できる、自分にとって心の拠り所となるような場所。】を解答としました。
書かれている内容から記述の要素を自分で導き出さなければならない、他の問を利用して記述の要素を導き出すなど、「麻布の典型題」と言えますが、少々作業量が多いです。
問13
傍線部11「ひとくち〜気分にもさせる」について、本文全体を踏まえた問です。
(1)気持ちの変化の記述 △
傍線部④「味がぜんぜん〜感じない」に注目して、コーラが「しっかりと甘かった」ことが「草児をさらに笑わせ」る理由を答える問題です。
麻布おなじみの「変化前→きっかけ→変化後」と答える問題と判断しましたが、きっかけとして「学校での人間関係の変化」「家での人間関係の変化」の2つともきちんと説明する必要があると感じました。
ですので、「変化前」の箇所に「学校での人間関係の変化」によってプラスの気持ちに変化したことについて触れています。
問5より、【味覚を失うほど、教室内で孤独を感じていた】
問11より、【杉田くんが教室内で話し相手になったことで、】【それ(孤独)が和らいだ】
傍線部11の前より、
「祖母の真似をしてみた草児に向かって、母がやさしく目を細める」
「「なにかいいことがあった」コーラにストローをさす草児に、祖母が問う。はてなマークがついていなくても、ちゃんとわかる。いつのまにかわかるようになった。祖母は今、たしかに自分に問いかけている。「なんにも」と答えた自分の声がごまかしようがないほど弾んでいて、草児は笑い出してしまう。」
とあります。
ここから【家族との会食で母と祖母とやりとりしたことを通して、コーラが甘く感じられたこと】としました。
また、傍線部11の「草児をさらに笑わせ」、問12の「嫌な現実から逃避して」を裏返して対比させて、
【現実の生活を前向きにとらえられる、うれしい出来事だった】としました。
以上を組み合わせて、
変化前
【味覚を失うほど、教室内で孤独を感じていた草児は、
杉田くんが教室内で話し相手になったことで、
それが和らいだ。】
きっかけ
【その後家族との外食で母と祖母とやりとりしたことを通して、コーラが甘いと感じられたことは、】
変化後
【現実の生活を前向きにとらえられる、うれしい出来事だったから。】を解答としました。
例年通りの形式から少しひねってあるように感じます。部分点狙いで良いでしょう。
(2)理由の記述 ×
波線部C「男の首がゆっくりと左右に動く」
波線部D「もう一度男が首を横に振った。〜自分の席に戻る」
波線部E「「いろいろある」世界から〜神さまにお願いするように思った」に注目して、
コーラが「しっかりと甘かった」ことが、草児を「泣きたいような気分にもさせる」理由を答える問題です。
(1)の気持ちと違う方向性の「泣きたい」に至るまでの内容を答える問題です。
波線部Cの前より、
「声をかけようとした時、ふいに男が顔を上げた。挨拶しようとした草児の手が、宙で止まる。」
→【男に声をかけたいと考えていた】
波線部Cより
「男の首がゆっくりと左右に動く」
波線部Dより、
「もう一度男が首を横に振った。口もとだけが微笑んでいた。だから草児も片手をゆっくりとおろして、自分の席に戻る」
→【お互いに関わるべきではないという男の気持ちを汲み取った】
波線部Dの後、波線部Eの前より、
「あの人はきっと、男が鞄にしのばせているお菓子のような存在なんだろうなと勝手に思った。というよりも、そうでありますように、と。」
波線部Eより、
「「いろいろある」世界から逃げ出したくなった時の命綱みたいな、「やっかいだけどだいじな人」とあの男が、ずっとずっと元気でありますようにと、名前も知らない彼らが幸せでありますようにと、神さまにお願いするように思った」
→【現在、お互いが大事な人と過ごしている】【男が大事な人といる】
傍線部11より
「泣きたいような気分にもさせる」
→【さびしかった】
問12より、男の情報を追加し、【現実逃避をしていたときに出会った男】として、
全ての内容を組み合わせて、
【現実逃避をしていたときに出会った男が大事な人といるのを見て、声をかけたいと考えていたが、現在、お互いが大事な人と過ごしているのなら、お互いに関わるべきではないという男の気持ちを汲み取り、さびしかったから。】を解答としました。
現実逃避をしていた時に会話をしていた男が、首を左右に動かしたところから「お互いに関わるべきではないという男の気持ちを汲み取り、」と判断できるかどうかがポイントです。
イメージは湧くかもしれませんが、記述するのは難しい問題だと思います。
◆まとめ
文章の内容が「重かった」こともあり、例年よりも「設問内の誘導が多い」年でした。
麻布を受験する皆さんであれば、おそらく根拠として拾う箇所に「大きなズレ」が発生するというのは考えにくく、
「設問にいかに過不足なく答えるか」を重視し、例年よりも「質の高い答案」が求められたのではないかと思います。
また、全体を読み解く上でのヒントとなる問を「選択肢」形式にしたことも、学校側から受験生への配慮だったのではないかと感じます。
抜き出し問題が1問ある年に、選択肢が3問あるのは珍しく、「本来は記述で聞きたかった問を、直前のタイミングなどで選択肢に変えたのではないか」など、いろいろなことが想像できました。
出題者の意図がきちんと感じられる、良い出題だったのではないかと感じています。
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