サカセルコラム

開成中の国語分析(2024年) Column

過去問分析

開成中の国語分析(2024年)

2024.05.10

◆各種データ
国語算数85点満点、理科社会70点満点、4科目合計310点
合格者最低点 216/310
合格者平均 60.2点
受験者平均 51.9点

参考:https://kaiseigakuen.jp/admission/exam/result/

◆出題形式
試験時間50分 85点満点

◆大問2題構成
大問1 論説文 3問(小問数5)
大問1 小説文 5問(小問数9)

◆問題の種類(2023年度)
・記述 約80%
・選択肢 0%
・抜き出し 約10%
・知識 0%
・漢字 約10%

今年度の特徴としては、2022年、2023年の入試問題に比べて、説明文の文字数がだいぶ少なかったことが挙げられます。どちらかというと2021年や2020年の問題に近いです。

また、2023年の問題では記述に文字数の制限がありませんでしたが、2024年度では文字数制限があるものとないものの両方が組み込まれています。

さらに大きな点として、抜き出し問題が出題されています。ここは驚いた受験生も多かったかと思います。

それではここから各設問の詳しい内容に関して解説していきます。

今回使用する指標

○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題

大問1 佐々木正人「時速250kmのシャトルが見える」

文章内容の図解

今回の文章ではアフォーダンスの意味が分からないと解けませんので、しっかりと意味を認識するようにしましょう。

また、今回最も重要なのが「困難な環境」→「アフォーダンス」→「新たな可能性」という3点セットです。この3点セットがおさえられていると文章内容の理解と問題を解くことが容易になるかと思います。

問1 抜き出し・記述 ○〜△

抜き出し問題でした。驚いた生徒も多かったかと思います。

問題自体は比較的簡単だったので、しっかり取り切りたいですね。「具体的に」という条件を見落とさなければ難しくはなかったでしょう。

抜き出し問題では、

1.答えを探すのに必要な「キーワード」を拾う
2.捜索する範囲を大きく決める
3.細かく探す

以上のステップが有効です。いきなり傍線部の前後から細かく探すことは、非効率的ですのでやめましょう。

1.キーワード探し

設問に「リハビリの話」…A「具体的に」…Bとあり、「にある性質が」…Cとあります。ここをキーワードとしましょう。

2.捜索範囲決め

AとBより、文章の初めから傍線部2の5行前の「例えばロック」までを範囲としましょう。

3.細かく探す

Cより、性質という言葉に注目していくと傍線部1の1行前に「周囲の環境のなかには行動を可能にしているさまざまな性質があるわけ」という一文が見えます。ここから「周囲の環境」という5文字が見えます。ただし、AとBより「具体的に」という縛りがあるので、「周囲の環境」をより具体的にした言葉を探します。

リハビリの話における「周囲の環境」は「プール」や「水」にあたります。この意味の5文字を探しにいきましょう。すると文章の初めから4行後に【プールの水】という言葉がありますね。これが解答です。

1.キーワード探し

①より、「プールの水にある性質が〔②〕に〔③〕という行動を与える。」という一文になり、「プールの水」「性質」「行動を与える」というキーワードが拾えます。

2.捜索範囲決め

①と同じです。

3.細かく探す

上記からプールの水が人間の身体のどの部分に影響を与えるのか?と考えます。それでは本文の「プールの水」という単語の後を見ていきましょう。

すると、プールの水が「人間の身体」に影響を与えていると分かります。

以上から、7文字の人間の身体に関係する単語を探しましょう。そうすると下線部1の2行前に【下脚のない全身】という言葉が見つかります。

これは記述です。間違えて抜き出し問題と錯覚しないように気をつけましょう。

①と②の内容を踏まえて考えます。プールの水にある性質が下脚のない全身にどんな行動(影響)を与えるのか、を探していきます。探す場所は①②と同じで良いでしょう。

下線部1の6行前〜4行前「大腿部を左右に揺らす動き」「背と腰をくねらせる水平運動」などや、下線部1の1行後「身体を横に揺らす」「推進する」などをまとめていきましょう。

【背と腰をくねらせ、(横に揺らし)推進力を得る】

問2 記述 △

「理由」の記述です。

まず傍線部の1文を読むと、アフォーダンスがあるなと私が思えるようになった一つのきっかけがあります。」とあり、きっかけ=理由ですので、傍線部2の後に理由が書いてあると分かります。

傍線部2の後には具体例が書かれており、具体例を読んでいっても抽象の部分がありません。ですので、この具体例を自分でまとめて書きましょう。ただし、抽象化しすぎると理由としてふさわしくなくなってしまうので、あくまで「筆者が、アフォーダンスがあると思えるきっかけ」としてふさわしい具体性は残しましょう。

このような具体の文章をまとめていく動きを抽象化と言い、開成では必須の技術になります。しっかりできるように訓練しておきましょう。

まず、傍線部2の後ろの部分の歩行訓練の具体例を読んでいきます。

視界がないという困難な環境を筆者は体験します。

その中で、感覚が研ぎ澄まされていき、空気の振動や音といった空気中に存在しているアフォーダンスを認識しています。

(傍線部2の12行後「ほかにもいろいろな音が聞き分けられたのですが〜多様な振動やその微細な変化を、失明した人たちは感じ取っている。」傍線部3の3行前「街の各所には独特な路の交差部の音や〜列車の音などがある。」傍線部3の2行前「失明するということは光を失う〜振動の世界に深く触れることでもあるのです。」などが具体例です。)

上記の具体的な内容を記述の中で全て書き切ることはできないので、抽象化します。

今まで認識できなかった空気中の振動や細かな変化、音などのアフォーダンスを筆者は認識した。

筆者はそういった空気中に存在した多様な振動や微細な変化というアフォーダンスを感じたことにより、人は視力を失う代わりに「振動の世界に深く触れること」(傍線部3の1行前)ができるということ気がついたわけです。

【視界が無いという困難な環境が、今まで認識できなかった空気中の振動や細かな変化、音のアフォーダンスを筆者に認識させたため。】

別解【視界の無い環境の中で筆者は感覚が研ぎ澄まされ、空気中の振動や微細な変化、音などの振動の世界に触れることができたため。】

問3 記述 ○〜△

共通点を見つける「答え」の記述です。共通点を探していきます。

まず、スポーツについて考えていきましょう。

傍線部③の直後はスポーツの過酷さ、困難さの具体例となっています。少し見ていくと、次の段落でスポーツの醍醐味についてまとめて書かれた部分がありますね。傍線部3の6行後「アスリートといわれる人たち〜出来事こそがスポーツなのです。」この部分がスポーツの醍醐味です。また、傍線部②の直前の2行前「スポーツの世界でも〜それがスポーツだと思います。」にも同じ内容が書かれていますね。

長いので抽象化をすると

スポーツの醍醐味とは、ルールに縛られた不自由な環境の中で僅かな自由を見出し、肉体を活かしきっている点にある。

次に、上記のスポーツの醍醐味と失明者に付いて歩くという経験とで共通している内容を考えます。失明者に付いて歩く経験は問2で解いているので、そこも念頭に入れて考えます。

〈失明者に付いて歩く経験〉           〈スポーツ〉

・視界の無い環境      =     ルールに縛られた不自由な環境

     ↓                     ↓

・アフォーダンスが存在   =     様々なアフォーダンスが存在

     ↓                     ↓

・音や振動を捉える力    =    わずかな自由を見つけ、活かす力

                       

以上をまとめていきます。

【不自由な環境の中にあるアフォーダンスを人が活かし、僅かな自由を見出すことで新たな可能性を生み出す点。】

大問2 千早茜 「鵺の森」

今回の文章の主題は「弱者」と「成長」がテーマです。

弱者のテーマは最近非常によく出るテーマで、「LGBT → 少数派 → 弱者」などで絡めて出されることが多いです。

今回は「タトゥー → 少数派 → 弱者」という流れですね。さらに物語の舞台が田舎であり、保守的で閉鎖的な環境下であることも重要です。例えばこれが都内のクラブなどが舞台であったら目立たなかったことでしょう。しかし、実際は「タトゥー=はぐれもの」というイメージが定着している環境であったため、周りから浮いてしまい、苛められてしまったわけです。

また、珍しい点としては主人公が成長したわけではなく、クラスメートの翔也が成長したことが挙げられます。基本的に主人公が成長していくお話が多い中学受験において珍しい文章だったと言えるでしょう。

問1 ○〜△

安心がどういうことであるのかの「言い換え」の問題です。

「背景」「きっかけ」「意味付け」「気持ち」に当てはめて考えていきましょう。

今回は読みやすさ重視のため、「背景」から書いていますが、「きっかけ」から探すのが基本です。

・背景

物語の舞台の環境

2〜3行目「人口の少ない町で〜慎重に読まなくてはならない。」6~8行目「けれど、田舎の空気は〜さまざまな噂が飛び交っていた。」

保守的で閉鎖的な、出る杭は打たれる同調圧力の強い環境。

主人公の性格

→4~5行目「僕は転校が多かった〜把握していた。」12行目「一度、異物だとみなされたら〜いい点数を取らないようにしたくらいだった。」

目立つのを嫌い、周りの目を気にする臆病な性格。

・きっかけ

傍線部1の1文「それが、同じクラスの翔也だった。翔也も転校生のようだった。」傍線部1の1行後「翔也には父親がいなかった〜苛々したくらいだった。」

苛めの標的にしやすそうな翔也がいた。

・意味付け

ひとつ目の中略の2行前「ただ、確実な標的が〜人知れずほっと息をついていた。」

→自分が苛められないと思った。苛めの標的にされないと思った。

・気持ち

これはもちろん「安心」です。

以上をまとめていきましょう。

枠の大きさ的に考えると文字数は40字程度が適切です。
また、文字数を考えると「背景」を入れるのは難しいので、カットして良いでしょう。

【自分よりも苛めやすそうな翔也がいることで、自分が苛めの標的にはされないこと。】

問2 △

「気持ち」の記述です。

「背景」「きっかけ」「意味付け」「気持ち」を考えていきましょう。

今回も読みやすさ重視のため、「背景」から書いていますが、「きっかけ」から探すのが基本です。

・背景

傍線部2の4行前『「そんなことをしても無駄だよ〜自分を殺しても完全に溶け込むことはできない。」』

町に馴染めない主人公と翔也で苦しい心中を共有している。

・きっかけ

傍線部2の直前「水の中ではしゃぐクラスメイトを見つめた。」

・気持ち

ここが今回のポイントです。

本文には気持ちが書かれていないので、「背景」と「きっかけ」から考えていきます。

まず直前で、翔也は息苦しい現状を主人公に話し、主人公はそれに共感しています。

ここから主人公も町に対して良い感情を抱いていないことが分かります。これは問1で拾った主人公の人物像からも予想ができることですね。

町に対しての負の感情。

さらに傍線部2で「どうして人って水に入るとあんなに声が高くなるのだろう。」とあり、はしゃぐクラスメイトを冷静に分析していますね。

冷静、落ち着いている。

上記の2つを合わせた感情を考えましょう。

冷ややかな気持ち、白けた気持ち、冷めた気持ち、一歩引いた

以上をまとめます。今回、「きっかけ」→「気持ち」の繋がりがしっかりしている点と文字数の観点から「意味付け」はなくて良いですね。

枠の大きさ的に文字数は問1と同じように40字程度が良いかと思います。

【普段、翔也や自分を余所者扱いしている生徒達のはしゃぐ姿を見て、冷ややかな気持ちになっている。】

問3 △

「気持ち」の記述です。

「背景」「きっかけ」「意味付け」「気持ち」を考えていきます。

今回も読みやすさ重視のため、「背景」から書いていますが、「きっかけ」から探すのが基本です。

・背景

これは問1を解いていると分かりやすいです。

今までは苛めの標的である翔也がいたことに安心していた。

・きっかけ

直前の出来事はこれしかないですね。

多くのクラスメイトが感心する素晴らしい模型を翔也が作ってきた。

さらに、傍線部3の1行後「いつも乱暴な〜高い声で言った。」傍線部3の4行後「翔也は小さな声で〜得意そうだった。」などからクラスメイト達の翔也を見る目が変わっていることが分かります。

翔也がクラスメイトからの高い評価を受け、注目を浴びている。

・意味付け

ここが今回の記述で1番のポイントかと思います。

「背景」「きっかけ」と、傍線部3の10行後このままでは、苛めが僕に回ってきてしまうと思った。」から考えます。

自分が苛められる。

また、少し難しいかもしれませんが、傍線部3の「今にも飛び立ちそう」という文言に注目しましょう。これは翔也の様子を象徴している間接表現です。つまり、「白い鳥の模型」=「翔也」であり、「飛び立ちそう」=「クラスカーストの最下層からの脱出」と考えられます。

翔也のクラスでの立場が変化する。

上記の2つを繋げて意味付けの完成です。

翔也のクラスでの立場が良くなり、自分が苛められると思った。

・気持ち

これは上記のヒントと傍線部3の11行後「その恐怖に抗えるものなんてひとつもなかった。」から考えます。

恐怖、不安、恐れ、など。

以上をまとめます。

枠の大きさから50字程度が良いかと思います。

【苛められていた翔也が模型によってクラスで一目置かれ立場が変化し、今度は堤自身が苛められる番になると恐れている。】

問4 △

「気持ちの変化」の記述です。

「変化前の気持ち」「大きなきっかけ」「変化後の気持ち」を骨子として考えます。

・変化前の気持ち

セリフにしっかりと書かれているので、分かりやすいかと思います。

傍線部4の6行後『「わかんない?〜行けると夢見た。」』

自分と似た人たちがいる場所に行きたいと思っていた。

また、「タトゥーを隠していた行動」などから目立ちたくないと考えていたことも分かります。

目立つのを避ける。孤独を避ける。

・大きなきっかけ

これは当然ですが、鵺を見たことですね。

・変化後の気持ち

こちらもセリフにしっかりと書かれています。

文章の最後から9行前けど、鵺を見た時思った〜目の前が開けた。」から周囲からの評価や理解、孤独への不安などから解放され、自分らしさを大切にしていこうと吹っ切れている様子が分かります。

周囲からの評価や理解、孤独への恐怖から抜け出した。

自分らしさを大切にして、堂々と生きようと決意している。

以上をまとめていきましょう。

【集団で目立ち、孤独になるのを恐れていたが、孤高な鵺の姿を見て、周囲からの評価や理解を求めず、自分らしさを大切に堂々と生きようと決意している。】

問5

漢字です。トメやハネに注意して丁寧に書きましょう。

◆総括

本文の中に、しっかりとヒントが含まれており、書きやすい記述が多くありました。これが平均点の上昇に起因しているかと思います。

一方で、情報が多いからこそ何を書くべきで、何を書かないべきかの取捨選択が難しいという面もあったかと思います。設問で聞かれていることをしっかり捉える力が重要でした。


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松田 浩志

この記事を書いたのは...

松田 浩志

自律学習サカセルでは算数・国語、主要2科目を担当。

大手進学塾では、教務主任職として、校舎全体の運営を担当し、日曜日の志望校別コースの最上位クラスから自校舎の基本クラスまで、算数・国語の両科目で毎年幅広くクラスを担当してきた。

現在の趣味はファッション。
もともと古着が好きだったのですが、現在は「キレイめ」なファッションが好み。

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