渋谷教育学園幕張中、通称「渋幕」
進学校の中では珍しく、芸術の分野に力を入れている学校です。
グローバルな人材を育成することに主眼を置いています。
また、大学の進学実績についても東大合格者ランキングトップ10の常連校ですが、海外留学を志望する生徒が多く、ハーバード大学をはじめとして、海外の大学に実際に進学する生徒も多い学校です。
◆各種データ
受験者平均点 56.7点
合格者平均点 64.3点
想定合格点 60点
◆出題形式
試験時間50分 100点満点
◆大問1題構成
大問1 説明的文章(論説文) 約8問
大問2 文学的文章(小説文) 約8問
◆問題の種類
・記述 約20%
・選択肢 約45%
・抜き出し 約15%
・漢字 約20%
形式としては、選択肢問題を中心とした大問2題構成となっています。
大手塾の模試などで多く採用されている形式ですが、大問ごとに2問ずつ、2~3行程度の文字数自由の記述が出題されています。
毎年のように文学史が出題される珍しい学校ですが、ここの出来で合否が決まるというよりも、文章の内容を構成から掴んだり、根拠をしっかり拾ったうえで丁寧に問題を解いたりという作業に慣れていることの方が大切です。
また、「本文の切り貼り」で記述問題への対応が可能となっており、×を取らないことは難しくないでしょう。
国語は「読む」「解く」という作業を大切にして、過去問などで練習を積み上げてきた生徒さんであれば、対応策は取りやすいでしょう。
選択肢は「×の要素を混ぜる」形式でひっかけを作るので、消去法で解くのが上手い子が、高得点を収めているという印象です。
特に、筆者のイイタイコトを「読む」ことが出来ていれば、解くのは容易です。
個人的に、国語で合格ラインより上の点数を稼いでおいて、他の科目の負担を減らすことが効果的な対策であると考えています。
ここからは2021年度の渋谷幕張中の出題を通して、どのような戦術で取り組んでいけばよいかを検討していきたいと思います。
今回使用する指標
○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題
解答はこちら
大問1「具象以前」湯川秀樹
問1漢字 ○
確実に得点したい問題です。
問2抜き出し ×
空欄補充の問題です。
傍線部を含む一文に
「まれなこと」
とあります。同じ段落に
「まれにしか訪れない…」
とあり、そこの指示語の中身を追っていっても答えが見つからない、という問題です。
さらに、「まれ」が1ページ後の「滅多に来ない」という表現に言い換えられていると気付かないと正解できないため、飛ばしても合否に影響はないと言っていいでしょう。
問3選択肢 ○
「同じ平面の上の少し離れたところにきているに過ぎない」
の具体例を選ぶ問題です。
傍線①と同じ文の、
「日々の努力によって、相当前進したつもりになっていても」
の前進した先(ゴール)が
「着想・構想が理論体系の形にまとまること」
であるとおさえられたかどうかがポイントです。
【前進しても、「理論体系」というゴールに至っていないほどの進み具合だった】ことの言い換えを選んで、答えはオになります。
問4選択肢 ○
「情報伝達の方法が急激に変化してきた」
ことについての筆者の考えをおさえる問題です。
まず、傍線②の直前の段落から、
研究の完結、
彫刻の完成、
論文の出版など
の形になっていない「具象以前の世界」で終わってしまうものに関して、筆者は
「無意味な世界ではない」
と【肯定的に見ている】と押さえた上で、傍線②と同じ段落の
「情報伝達の方法が急激に変化」して、「具象以前の世界は初めから相手になっていない」こと
から傍線②の内容を【否定的に見ている】と押さえられるかどうかがポイントです。
答えはウとなります。
問5言い換えの記述 △
「混沌に目鼻をつけようとする努力」
を言い換える問題です。
「目鼻をつける」という表現が「物事のおおよその見通しをつける」の意味であるととらえられるかどうかがポイントだとは思いますが、傍線③を含む一文に「いわば」とあるので、同じ段落のここより前の本文を加工すれば良い、と分かれば△以上は取れるでしょう。
文章が読めていれば、さらに難易度は下がると思います。
問6理由の記述 △
「外から見て、離れて見て、ある人を評価するだけではいけない」
理由を、文章全体をふまえて記述する問題です。
問4の「具象以前の世界」で終わってしまうものを筆者は【肯定的に見ている】というのを押さえられていれば、△以上を取ることは難しくないはず。
具象以前の世界を【肯定的に見ている】箇所を拾って、答案にします。
国語が苦手であれば、筆者の【肯定的】要素を繋げて、答案作成をするのも良さそうです。
問7選択肢 ○
文章全体の「対比が追えているか」を問う問題です。
1理論体系
3業績
6知識
はどれも、「着想・構想が理論体系の形にまとまった」もの、
2着想
4「何か」
5イメージ
はどれも「着想・構想の段階で終わっている」ものになります。
問8選択肢 △
「本文が主に主張していること」を具体化した文を押さえる問題です。
選択肢で用意している文は非常に読みにくいですが、文章全体でおさえるべき内容は、
「具象以前の世界」を【肯定的に見る】べきだということです。
ですから、
「着想・構想が理論体系の形にまとまっているもの」
や、それが「評価されている」などの内容が含まれていたら、全て×でカット、ということになります。
答えはイです。
大問2「極楽」菊池寛
問1漢字 ○
aの「卒中」が少々難しいですが、主人公が1行目から亡くなっていること、
「脳卒中」などの単語が思いつくかどうかで正解かどうかが決まりそうな問題ですね。
cは日本国憲法の「不断の努力」という表現が思いつくかどうか。
最低でも2問は正解したいところです。
問2表現を答える問題 △
Xは「百八」から煩悩(ぼんのう)、Yは「Yに落ちない」から「腑(ふ)に落ちない」と判定する問題です。
「除夜の鐘」の知識などは、学校側からすると「当たり前のように知っていてほしい常識」の問題なのでしょう。
知っていれば有利に働きますが、ここで差はつかないでしょう。
問3 気持ちの記述 △
「どういう点でおかんの死は安らかだったのか」
を、原因とともに記述する問題です。
同じ段落の中に、
「おかんは、浄土に対する確かな希望を懐いて、一家の心からの嘆きのうち(裡)に、安らかな往生を遂げた~」
とあります。
「浄土に対する確かな希望」
「一家の心からの嘆き」
の2つを、本文の他の箇所からわかりやすく言い換えられるかどうかが得点の差に繋がるでしょうが、ここを記述でそのまま書いても、ある程度の部分点はもらえそうです。
問4 選択肢 ○
「宗兵衛が不思議に、何とも答えなかった」
理由を答える問題です。
ここよりも前では「楽しそうな様子を見せている」から「不思議に」と言っています。
傍線②よりも前ではなく、後から探すという方針が立てられるかどうかがカギでしょう。
「何時までも、何時までも」【極楽に居続けているから退屈である】と押さえられれば、それを言い換えているウが答えとなります。
問5 選択肢 ○
「不退転の精神」とはどういう精神かを2つ選ぶ問題です。
傍線③と同じ文の中から、「不退転の精神」は「心のうち(裡)に燃えて」いる内容と押さえて、
漢字の訓読みから「退かない」などの意味が捉えられれば、どんなときに生まれる精神なのかも押さえやすくなります。
同じ段落内の、
「娑婆から極楽へ来る~未来の楽しみ~。退屈しなかった。」
などから【極楽へ来る】ことと同時に持っていた精神と判断し、ア・オが答えとなります。
問6 選択肢 ○
「地獄という表現に『 』がついているのはなぜか」
という解釈を答える問題です。
「 」には、本のタイトル・会話・強調などが入ることがありますが、それらよりも、【本文特有の意味】や【皮肉】などが聞かれます。
最終的に「極楽にいること」がマイナスになってしまう終わり方になっていることから、「地獄」がプラスとして捉えられていると気付けるかどうか、だと思います。
「 」の意味は中学受験において必須の知識になりますので、必ず知っておきたいところです。
問7 理由の記述 △
「おかんが『地獄』の話をするのが楽しみになったのはなぜか」
を、文章全体をふまえて記述する問題です。
設問に「楽しみになった」と気持ちがわかる表現があるので、「背景→きっかけ」の部分を中心に書くことが大切になります。
全体の内容が読めていて、読めた内容をもとに進めていけば、△以上の答案にはなるでしょう。
増田は「気持ち」を入れずに、
背景:望み通りに極楽浄土に来られたが、なんの危険も発生しないところが退屈
きっかけ:見たことのない「地獄」の想像が刺激になった
の2つの要素を軸に答案を作成しています。
問8 文学史の作品名を選択肢で答える問 ×
ほぼ毎年出題されますが、時間をかけて勉強してこの1問を取るよりも、
文章を読み取る練習をした方が得点効率が良いだろうというのが、私の思うところです。
ここにも出てくる「夏目漱石」「森鴎外」「川端康成」「芥川龍之介」「谷崎潤一郎」あたりは、作品名を聞いて、作者名が答えられるようにしても良いでしょう。
◆まとめ
論説文、小説文どちらも、「最低限これくらいのレベルの文章のイイタイコトくらいは読めてほしい」と感じる出題です。
それができれば、各選択肢については難しいひっかけは作っていないことと、本文加工の記述で△以上の点数は作れそうなので、余裕を持って戦うことができるでしょう。
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