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麻布中の国語分析(2021年) Column

過去問分析

麻布中の国語分析(2021年)

2021.09.03

御三家中学の一角、麻布中学。

私服での登校を始めとする自由な校風、東大を始めとする難関校の合格実績、各界に輩出される人材の多さ、全てが揃う学校です。

入学後も強い「個性」を持つ生徒たちが多く、自分も小学生の時、文化祭で黒髪の人が少なかったことが印象的でした。

また、麻布中は各科目の平均点などの発表はありません。

発表されるのは4科目の合格最低点と合格最高点のみとなっています。

◆各種データ

合格最低点 113/200(56.5%)
合格最高点 159/200(79.5%)
国語想定合格ライン 36/60

◆出題形式

試験時間60分 60点満点

◆大問1題構成

文学的文章(小説文) 約16~19問

◆問題の種類

・記述 約70%
・選択肢 約10%
・抜き出し 約5~10%
・漢字 約10%

という割合になっています。

60分で、6000字~9000字に渡る文学的文章が出題されます。

大問1題構成の文学的文章の超長文が出題され、解答用紙でおおまかな文字数のみ指定されている自由記述が設問の中心になっています。

昔から一貫してこの形式が取られており、来年度以降もこの傾向を踏襲することが考えられます。

合格ラインは概ね6割。毎年35~40点を狙っていくイメージです。

麻布の定期テストなどの採点から考えると、まず、「日本語として文が成り立っていない」ものは容赦なく×にされる傾向にあります。

ただ、「なるべく得点が作れるように」という配慮があり、キーワードや表現ごとに細かく配点を決めて、採点に取り掛かっているという傾向にあるようです。

また、「それまでに答えた記述問題をヒントにして解く問題」が毎年存在しています。

後半の設問で出題されることが多いです。

それまでの問題で正解に近いものが書けていなければ、連鎖的に失点します。

そして、文章の量が近年増加傾向にあります。

2019年度~2021年度まで、「文章が1~11ページ」に、「語注が12ページ」に、「設問が13~14ページ」に、という形式を取っています。

2018年度は「文章が8ページまでしかなかった」ことを考えると、2019年度の受験生で驚いた子たちは一定数いたのではないでしょうか。

ここからは2021年度の麻布中の出題を通して、どのような戦術で取り組んでいけばよいかを検討していきたいと思います。

今回使用する指標

○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題

解答例はこちら

「河川敷のガゼル」津村記久子

問1漢字 ○

「思案」に少し悩むかもしれませんが、ここは確実に得点したい問題と言えます。

問2(1)抜き出し ○

「そのこと」の中身を傍線部の前から探す問題です。

「20字ちょうど」で答えを探すため、平易な問題だと言えます。

問2(2)理由の記述 ○

傍線①に気持ちのわかる表現が入っていないので、「背景→きっかけ→気持ち」で書けば良いでしょう。

傍線①の直後から

「何かを言いたい…」

と始まるので、その段落を中心に組み立てます。

23行目から、29行目の中略の直前までがヒントになります。

問3選択肢 ○

「Q町」と「女性」がどうガゼルに向き合っているかを問う問題です。

「Q町」は傍線②の

「見物人の呼び込み」
「町のキャラクターとして利用」

から、【町の集客にガゼルを使おうとしていること】を押さえて、

「女性」は1行目からの段落から、【ガゼルを撮ってSNSで発信していること】を押さえれば、ウではなくエと導けると思います。

問4記述 △

「少年がガゼルに対してどのように向き合っているか」

を聞く問題です。

傍線④を含む段落の前・後の段落の、少年の行動に注目します。

自分の目で見た「直接的な情報」とSNSやテレビなど、各種メディアの「間接的な情報」のそれぞれに対してどういう様子を見せているかについて書きましょう。

問5選択肢 ○

「ガゼルに対する少年の行動から読み取れること」

を答える問題です。

傍線⑤と⑥のどちらも設問の条件として指定されているので、どちらもチェックします。

傍線⑥の「ガゼルに対して言いたいことがまとまった」という内容から、

×ア自分の望みをガゼルの望みとして
×ウかわいそうに思う
×エ他のことが考えられなくなってしまったが

の部分の「×のポイント」として見つけられるかがカギです。

問6言い換えの記述 △

「彼の叫びが」
「自分の叫び」
「であるような気もした」

を言い換える記述です。

まず、傍線⑦の周辺から「彼の叫び」の中心が「学校には行きたくない」であることをおさえます。

「自分の叫びであるような…」という内容から、「学校には行きたくない」という彼の叫びと、自分に共通する内容を検討し、「大学に行きたくない」と置き換えできるかがポイントです。

共通する内容、「であるような気もした」から、【自分の思いを代弁している】と置き換えできれば完成です。

△以上は目指したい問題です。

問7理由の記述 ○

「Q町がガゼルを手放すことにした理由」を答える問題です。

傍線⑧と同じ文にある

「ガゼルの来訪で活気づいていた」
「みんな大人」
「ガゼルをいつまでも囲い込もうという姿勢でいるほうが町の評判を下げるという判断のもと」

の3つを利用するのが良いでしょう。

国語が苦手だと思う生徒さんはなるべく本文の表現を利用して、得意な生徒さんは「抽象化」したり、「具体化」して肉付けしたりして、答案を整えるのがオススメです。

問8気持ちの記述 △

「私は、ガゼルを河川敷に残そうとする女性の主張に対して、どういう思いを感じ取ったか」

を答える問題です。

傍線⑨にある女性の「焦り」から、ガゼルがいなくなるとどういうマイナスの点が発生するかを考えます。

女性がSNSにガゼルを載せることで、全国ネットのニュースショーに出演したり、取材を受けるようになったりする第一人者になっていることがヒントです。

気持ちの締めに増田は【傲慢さ】と入れましたが、これは「自己中心的」「利己的」「利己心」などの表現でも良いと思います。

問9理由の記述 ×

「かけ出したガゼルを見て、少年がなぜ、走りたかったのかと言ったか」

を答える問題です。

傍線⑩の周辺から記述で使えそうなパーツがなかったことから、何を書いたら良いのかわからなかった生徒さんも多かったはず。

傍線⑩「走りたかったのか!」から、何かがわかってプラスの気持ちになっていること、

またそのきっかけとして、【ガゼルがかけ出した】ことから検討します。

「ガゼルは人間の言葉を話すわけではない」ことから、「自分の質問の返答を行動によって示した」と考えられるかがカギになります。

難度が高いので、差がつかない問題と言えるでしょう。

問10対比の記述 △

麻布おなじみの「それまでに答えた記述問題をヒントにして解く問題」です。

聞かれている内容は「傍線⑪のガゼルをよそへ行かせたくない女性の思いと比較した、傍線⑫のときの少年のガゼルに対する思い」です。

少年の内容は問2の(2)と問4が、女性の内容は問8がヒントになるでしょう。

少年の話を一行に、女性の話を一行に抽象化する作業が必要になるので難易度は高くなりますが、

それまでの問2、4、8で失点していたらそもそも合格ラインに達しないので、△という問題設定にしています。

問11(1)気持ちの記述 ○

「ガゼルが柵の外に出た理由を、私がどのように考えているか」

を答える問題です。

この問題は「ガゼルが柵の外に出た理由」を書いて×、となる生徒さんが多そうだという印象です。

傍線⑬の前の段落に「私は思った」と書いているので、この周辺の

「そもそもサバンナ~ガゼルにとって良い環境でもないだろう」
「どこもガゼルにとって場違いなのだ」
「どこもかしこも居心地が悪い~柵や檻の外を選ぶだろう」

から考えます。

本文を加工して解ける記述問題です。

問11(2)「本文全体を踏まえた」気持ちの記述 ×寄りの△

「柵の外に出て、かけていくガゼルに対する少年の言葉を、私が受け入れた理由」

を答える問題です。

「理由」を聞かれていますが、「私が受け入れた」からは気持ちがはっきり読み取れないので、増田は気持ちの記述としてとらえています。

ヒントは「【 】182行目~186行目の部分に注目して」という設問の条件です。

ここでは、少年と私が、お互いに身の上話をするわけですが、共通点から【お互い似た境遇】であることを拾えるかどうかがポイントです。

この【少年と私の似た境遇】と、【ガゼルの境遇】にも共通点があることが拾えないと、

【似た境遇のガゼルに、自分たち(少年と私)を重ねて見ている】と見るのは難しいでしょう。

解ける生徒さんは解けるのでしょうが、多くの場合×、もしくは△で数点拾う程度でしょう。

◆まとめ

麻布中は「入試問題」に「学校側からの温かいメッセージ」が込められている学校だと思います。

  •  長きにわたり同じ形式を踏襲した出題であること
  •  何字で書いても採点してもらえる、文字数指定のない記述問題が中心になっていること
  •  設問をよく読めば解く糸口がきちんと見つかるように問いを設定していること
  •  本文を加工して△をもぎ取れる記述問題や、漢字・抜き出し・選択肢問題を必ず用意して、算数小僧でも報われる問題形式になっていること

などが挙げられます。

最後の超長文の記述にばかり目が行きがちですが、問10くらいまでの問題をいかに丁寧に解くか、で勝負が決まる学校と言えます。

普段の勉強をおろそかにしない方が、合格しやすい学校と言えるでしょう。


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増田 雄介

この記事を書いたのは...

増田 雄介

圧倒的な指導力、学校別の専門性の高さ、そして面倒見の良さを持つ自律学習サカセルの国語・社会の看板講師。

その驚異的な指導力を武器に、大手集団塾の開成中コースの国語担当や有名個別指導塾のリピート率1位の凄腕講師として活躍。
成績が本当に伸びる実戦的な指導に目を付けた自律学習サカセルからのスカウトを受け、満を持して文系科目の講師として指導開始。

個別指導の業界では指導力No. 1の呼び声も高く、逆転、順当のどちらの合格にも強く、生徒のレベルに関係なく指導できる幅広さを持っている。

生徒だけでなく、自分の子供の成長を見守るのが楽しみな一児の父でもある。
趣味はぽっちゃりの自分でも着られるファッションの構築。

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