◆各種データ
合格者平均45.6
受験者平均38.8
想定合格点43点(85点中)
◆出題形式
試験時間50分 85点満点
◆大問1題構成
大問1 小説文 約9問(小問数)
◆問題の種類(2022年度)
・記述 約55%(5問)
・選択肢 0%
・抜き出し 0%
・漢字 約45%(小問4問)
という割合になっています。
記述問題を中心としており、記述は例年5問程度の出題です。
傾向が1〜2年に一度、ガラリと変わるのが開成中の特徴となっています。
2022年度は、小説文のみの大問1題構成、14ページに渡る超長文を読み解くことになりました。
選択肢、言葉の知識などの問題は一切なし。
受験者平均点は5割を割り込み、昨年度同様漢字と記述の練度での勝負となりました。
ここからは2022年度の開成中の出題を通して、どのような戦術で取り組んでいけばよいかを検討していきたいと思います。
今回使用する指標
○…合格には確実に取れてほしい問題
△…合格の勝負所・差がつく問題
×…落としても合否には大きく影響しない問題
大問1 森沢明夫「おいしくて泣くとき」
問1漢字 ○
1問3点くらいの配点になるのでしょうか。
①平静、②野次馬、③満面、④筋骨
で合計12点程度。平均点が低いときには、合否を分けるポイントになりますね。
問2理由の記述 ○〜△
傍線部1「さすがにこたえた」の理由を答える問題です。
今回の「こたえた」は「胸に応える」の意味で、【痛切に/身にしみて感じる】ととらえられるかがカギでした。
背景→きっかけ→気持ち
の形で書けると答えやすいでしょう。
傍線部の前の根拠(前根拠とします)は
正直、店にかかってきた電話にたまたま俺が出たら、いきなり「この偽善者ヤロー」と怒鳴られて通話を切られたこともあるし、あるときは、ポストに投函されていた紙切れを手にしたら、そこにボールペンで「偽善者!」と書かれていたこともある。
から、【「こども飯」を行う自分の父の店に対して、匿名の人間からたびたび「偽善者」と言われた】ということがわかります。
中学一年生になったばかりの頃、クラスで最初に仲良くなった友人に「お前んち、偽善者の店って言われてるらしいぞ。知ってた?」と言われたときは、さすがにこたえた。
これは、「身近な友人にまで『偽善者』という話が伝わっている」ということです。
抽象化すると、【「こども飯」を行う自分の父の店に対して、「偽善者」という評判が広まってしまっている】ということです。
これがわかったきっかけは、クラスの友人の言葉です。
背景【「こども飯」を行う父の店へ向けた「偽善者」という評判が広まっている事実を、】
きっかけ【身近な友人の言葉によって】
気持ち【痛切に感じたから。】
としました。
問3気持ちの記述 ○
傍線部2「なるほどーーって、何だよ?」と言った時の心也の気持ちを答える問題です。
これも問2と同様、背景→きっかけ→気持ちの記述で良いでしょう。
傍線部の前の根拠より、
それから俺は、机の落書きについて、ありのままにしゃべった。〜俺の説明を聞き終えたヤジさんは、〜「偽善者か……。なるほど。まあ、しかし、お前も大変だよな」
から、【父が善意で行っていることに対しての、偽善者という言葉に、「なるほど」と納得している様子】が読み取れます。
また、傍線部とその後に、
「(なるほどーーって、)何だよ?」
俺は、黙ってヤジさんを見下ろしていた。視線に苛立ちがこもってしまったかもしれない。
とあります。
これは、【偽善者という言葉に対して納得するヤジさん(矢島先生)に対して、反発する様子】が読み取れます。
そして傍線部の後では、
この瞬間、これまで俺がヤジさんに抱いていた「好感」の絶対量が、一気に半減するのを感じた。
これは、【ヤジさんに対して失望の気持ち】を持っていると判断できると思います。
「絶望」としてしまうと、「半減」と噛み合わなくなると感じましたので、そうしています。
背景【父の善意に対しての偽善者という言葉に】
きっかけ【納得する矢島先生に対して、】
気持ち【反発するとともに、失望している。】
としました。
問4箇条書きの記述 △
傍線部3「この感じは、やっぱり『怒り』だよなーー。」のとき、心也はどのようなことに怒りを感じたのか書く問題です。
自分の言葉で書きなさいとあるので、使いたい表現を置き換えていく必要があります。
傍線部の前と傍線部より、
偽善者のムスコーー。
毒を孕んだ言葉。その落書き。
思い出したら、俺の胃のなかで、嫌な熱がとぐろを巻きはじめた。
この感じは、やっぱり「怒り」だよなーー。
ここからは【偽善者のムスコという言葉を思い出して、怒っている様子】が読み取れます。
傍線部の後より、
俺は確信した。というか認めた。
認めたら、なぜか「怒り」の理由が明確になった。
偽善者のムスコーー、このムスコという三文字がやたらと腹立たしい意味を持つということに気づいたのだ。つまり、俺はただのムスコであって、偽善者と罵られたのは父だ。
父が、クラスメイトたちの前で吊るしあげられたのだ。
ここから、
「父が偽善者と罵られたこと」
「父がクラスメイトの前で吊るし上げられたこと」
が読み取れます。
前者には「父が何を行って偽善者と罵られたのか」について書き加え、<父が行っている「こども飯」に対して、偽善者と罵られた>
後者には「誰によって吊し上げられたのか」を考え<匿名の人間に、クラスメイトの前で吊し上げられたこと>という要素を導き出します。
まず、言い換えを行わずに<本文の表現を切り貼りした形>で書いてみます。
<父が行っている「こども飯」に対して、偽善者と罵られ、それを匿名の人間に、クラスメイトの前で吊し上げられたこと。>
これを言い換えていきます。
【父の善意による活動が、何者かに中傷され、それを同級生の前で公にされたこと。】
としました。
本文の切り貼りでもそれなりの解答になってしまうことが想定されたので「自分の言葉で」という条件がついたのではないかと考えられます。
問5気持ちの記述 △〜×
傍線部4「なんだ、泣きたい気分なのって、俺じゃん」の時の心也の気持ちを答える問題です。
こちらも
背景→きっかけ→気持ち
の形で書くのが良いでしょう。
傍線部の後で場面が切り替わっているので、傍線部の前と傍線部を中心に根拠を拾っていきます。
バケツをひっくり返したようなこの雨が、ビンボーも、偽善者も、きれいさっぱり洗い流してくれればいいのにーー。
そう思ったとき、ようやく俺は気づいた。
なんだ、泣きたい気分なのって、俺じゃん。
「泣きたい気分」から【深い悲しみ】
「ビンボー」が表しているのは【(夕花や石村のような)社会的に弱い立場の人間】
「偽善者」が表しているのは【それを救おうとする父のような人間】
どちらにも共通するのは、【匿名の人間に中傷されていること】です。
また、それらの少し前のところで、
正面から強い風が吹きつけてくる。大粒の雨滴が俺たちの顔をバチバチと叩いた。
「正面から吹きつけてくる強い風」は向かい風。「俺たちの顔をバチバチと叩いてくる大粒の雨滴」と合わせて、間接描写と見ることができると思います。
先ほどの記述の要素と合わせて置き換えて考えるなら【苦難・不条理を押しつけてくる世間】あたりでしょうか。
だから、
バケツをひっくり返したようなこの雨が、ビンボーも、偽善者も、きれいさっぱり洗い流してくれればいいのにーー。
と、「自分の行動で解決しようとする姿勢ではなく、『神頼み』のような姿勢をとっている」のではないかと読み取ることができると思います。
ここから【やりきれない思い】という心情を読み取りました。
背景【社会的に弱い立場の人間にも、それを救おうとする人間にも、】
きっかけ【中傷する何者かがいる不条理な世間に対しての、】
気持ち【深い悲しみとやりきれない思い。】
としました。
詩的な置き換えが必要ですし、かなり難しい問題だと言えると思います。
問6気持ちの記述 △
傍線部5「まずかった」と言った時の心也の気持ちを答える問題です。
難関校で出題の多い、「本当はプラスの気持ちを持っているが、とある気持ちからマイナスの発言をする」という「裏腹」な気持ちについての問題です。
言葉通りの気持ちを持っていると判断してはいけない問です。
まずは傍線部の前から、きっかけを探します。
なんだよ。マジかよ。やめるのかよ。
俺に、胃が重くなるような未来を想像させておいて、やめるのかよーー。
そもそも自分からやめて欲しいと言ったのに、いざ父が賛成してくれたら、それにも不平を言いたくなって、胸の奥のもやもやがむしろ一気に膨張してきた。正直、少し息苦しいほどだった。それでも、俺は、焼うどんを頬張った。そして、いつもよりしっかりと噛んだ。背中に父の存在を感じると鼻の奥がツンとしてきそうだったから、必死に噛むことに集中したのだ。
【父がこども飯をやめることをあっさり賛成したことに対して、それにも不平を言いたくなって、胸の奥のモヤモヤが膨張】
「父の存在を感じると鼻の奥がツンとしてきそう」→「父の存在を感じると、泣きそうになる」ことがわかります。
また、「泣く」という言葉は、嬉しさなどのプラスを原因とするもの、悲しさなどのマイナスを原因とするものの真逆のきっかけが考えられるので、どちらなのかを検討します。
傍線部の後より、
「母ちゃんも、お前も、嘘をつくのが下手すぎなんだよなぁ」
その言葉に肩の力が抜けて、フッと笑いそうになった瞬間、なぜか同時に鼻の奥が熱くなってしまって……、それから俺は、しばらくのあいだ後ろを振り向けなかった。
ここから【父の行動に感激して、泣きそうになっている】様子が読み取れます。
つまり、先程泣きそうだったのは「プラスの要因」からです。
「父の存在を感じると、泣きそうになる」と合わせて
【泣きそうになるくらい感激】とします。
ちょっと腹が立つから、今日くらいはイレギュラーな返事にしてやれ、と俺は思った。
「まずかった」
感激しているのに「まずかった」と言っているのは泣きそうになるくらい感激する気持ちを知られたくないという【照れ隠し】からです。
あとは、傍線部のさらに前より、背景を検討していきます。
「よし。てなわけで、死んだ母ちゃんの教えどおり、俺は自分の意志を尊重しながら生きる。やりたいようにやる」
父はニヤリと笑って、ビールをあおった。
「…………」
なるほど、やっぱり俺の意見は流されるってことか。
そう思ったら、言葉にならないもやもやが胸のなかで膨らみはじめた。俺はふたたび父に背中を向けた。そして、黙って焼うどんを口に運んだ。少し冷めてしまった麺は、さっきよりも粘ついていて、風味も落ちた気がした。それでも、かまわず食べ続けた。
ここから
【父は自分の意思に従い、こども飯を続けると言っていた】
【予想通り、自分の意見は流される】
【自分のことを理解してもらえないことへの不満】が読み取れます。
「ちなみに、だけどな」
穏やかな父の声を、俺は背中で撥ね返そうとして無視をした。でも、父は構わず言葉を続けた。
「心也が不幸になると、自動的に俺も不幸になっちまう」
「…………」
「だから、心也が不幸になるんだったら、俺は『こども飯』をやめるよ」
「…………」
「それが、やりたいようにやると決めている俺が、自分で決めた意思だ」
ここから、
【心也が不幸になるなら、父は自分の意思でこども飯をやめると言ってくれた】ことがわかります。
これに感激したのですね。
背景→きっかけ→気持ちの形で書いていきます。
背景【自分の意思が予想通り通らないことに心が騒いでいたが、】
きっかけ【自分のためにこども飯をやめると言った父の発言に、】
気持ち【泣きそうになるほど感激したことが照れくさい気持ち。】
記述に使えそうな要素が多い中で、75字におさめる難しさはありますが、
きっかけと気持ちで△以上を狙うことはできそうです。
ここ数年の中では最も難しかった年度と言えそうな2022年度。
しっかり○に近い点数を狙うところと、「△で良い」と折り合いをつけるところと、
「見極めること」が必要な年度だったと言えると思います。
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