サカセルコラム

社会学から考える中学受験③ Column

中学受験との向き合い方

社会学から考える中学受験③

2024.08.11

【中学受験事情】

1.中学受験算数が大変すぎる

開沼:やっぱり中学受験って算数大変じゃないですか?上る階段が多すぎるというのは感じます。

柴田:そうですね、理科社会は学校で習うものも結構受験で使えますし、国語も学校で習う漢字が多いです。ただ、算数はどうしても学校のレベルとは乖離していますね。

開沼:例えば大学受験の英語だと自分の場合、今はもう違うかもしれないけどZ会の速読英単語を一冊全部やって、日本語を読んだうえで英文の分からない単語を見つけて頭に入れていくというのをやるだけで、センター試験の英語は7~8割くらいは行けるのかなというメソッドがあります。でも中学受験の算数って「これをとりあえず反復していればいい」という域すら超えているような気がするんですけど、攻略法とかはあるんですか?

柴田:全体の攻略というのは難しいかもしれないですが、やはり根幹はありますね。生徒のカリキュラムを作るとき、ほとんどどの単元でも使う「割合と比」や計算の工夫、図形の基本知識は絶対に固められるようにしています。そして新しく出てくる公式は証明をして、それを生徒にもさせています。どうしてもできない単元も出てきますが、そこはできないものはできないと割り切っています。国語や英語は解き方自体は多いわけではないので、ある程度極めれば全体的にできるようになりますけど、算数はまた別かなと思います。

開沼:かける時間も膨大な気がするんだけど、小3・4くらいから受験算数の対策をしっかりやっていれば多くの子が行けるはずだろうという感覚なんですか?

柴田:できない子は本当にできないので、教え方が悪いとかではなく今のこの子では無理だなというのはあります。その時は無理に算数に時間をかけても仕方がないと割り切っています。または最終手段として、これは本質的理解の話にもなりますが、「みはじ」ってご存知ですか?

開沼:道のり・速さ・時間ですね、分かります。

柴田:あれは本当に良くないなと思っていて、速さの定義って例えば秒速だったら1秒で何秒進むかということで、単位だとm/sなのでそれで分かるわけですが、「みはじ」を暗記してそれに当てはめるというやり方ではその本質が理解できない。だから生徒には普段「みはじ」では絶対に教えないんです。ただ、こういうのはできない子が点数を取るためだけの道具としては良いと思っているので、どうしてもできない子にはこの教え方をして下駄をはかせるというのはしています。でも結局将来にはつながらないですね。また、割合のような文章題は国語力も必要だとは思うのですが、国語はすごいできるのに割合は基礎から怪しいという子もいるので、そこはもう個性なのかなと思います。

開沼:そういうときって親が家で個別指導みたいに熱心に教えるというケースもありますよね?

柴田:あるんですが、やはり親子だとけんかになりやすいです。だから「授業を増やすので先生にお任せします」というのはあります。揉めそうになっているのに無理に教えようとしてギスギスしていくのはよくないので、子どもとの接し方について親に教えるのも必要だなと感じます。

開沼:そうなると経済格差の問題も出てきますよね。

柴田:そうなんですよね、中学受験って本当に色々な問題が包括されているんですよね。

開沼:それに小学校高学年になってくると親との関係性も難しくなってきますよね。やっぱり家庭環境がいいほうが受験って突破しやすいんですか?

柴田:それはそうだと思いますね。それか家庭環境が悪い子は塾に長くいたりするので、それでしっかりやってくれる子は伸びますね。

開沼:それでよくなるなら親もいいでしょうね。

2.インターネットの発達と中学受験

柴田:この前生徒に「最近の中学受験生のレベル高くなってない?と言われたんですが、自分もそれは感じています。近年インターネットが発達したことでより情報が得やすくなりましたけど、それが原因の一つではないかと思っています。

開沼:なるほど、それはあるかもですね。例えば僕は中高生に研究を教えて、できる子は学会発表に出そうというプロジェクトを3年くらいやっているんですが、なんの間違いもないビジネスメールをパッと書いてくる子が中学生にもいるんですね。もしかしたらチャットGPTで作っているかもしれないですが、だとしても賢いですよね。

柴田:以前文学賞をとった人が、全体の5%をAIに書かせていたというのがありましたけど、AIを使うとして文章に違和感があったらそこを修正する力は必要になると感じています。

開沼:チャットGPTでも、具体的な計画やイメージを指示するのは人間ですし、それは基礎学力的な面で鍛えていくしかないと思います。

柴田:ビジネスメールの書き方とかもYouTubeで調べたらたくさん出てきますよね。昔だったら本屋に足を運んで買うという手間があったので、そのハードルが下がったのはいい影響を与えていると思いますね。
持論なんですが、ある程度のレベルの学校だったら塾なしでも昔よりはるかに合格を狙いやすくなったのではないかと思っています。YouTubeを観ていると無料でも本当にしっかりしていて、算数では公式も解説からやっていているのですごいなと感じます。算数の動画は特にコンスタントに視聴回数が増えていて、今後の中学受験のレベルも上がるんじゃないかと感じます。動画なので繰り返し観れますし。

開沼:それはあるでしょうね。SAPIX等に蓄積されたノウハウや、個別指導の先生の経験から「この子はこうすればいい」という方針を立てるというのはもちろん必要だけど、それにプラスして動画などで苦手なところをカバーする、デジタルを味方にできるかということが大事だと思いますね。

柴田:昔よりも本質を捉えられる機会が増えてきたので、中学受験をやる意味というのも大きくなってきていると感じます。

開沼:自分で頭使える人の方がどんどん勝っていきますからね。
また、ブログやYouTubeで子どもが受験のために何をやってテストの結果がどうだったかというのを記録している人がいるじゃないですか。ああいうのは昔はなかったですけど、今は参考にしている人は多いでしょうね。

柴田:そうですね、最近僕も観るようになったんですが、すごい助かりますね。

開沼:必要な情報を集められるかどうかは大事になってきますよね。

3.国語の重要性

柴田:このように算数の方はいい傾向だと思うんですけど、国語は軽視されがちだと感じていて、学校では読解の仕方をあまり教わらないことが多いんじゃないかと思います。また、国語の先生で、もちろんしっかりした先生もいるんですが「本当に国語を分かっているのかな?」と感じる先生もいます。国語の教育があまり整備されていない気がしていて、それが読解力に影を落としているんじゃないかと感じています。

開沼:そうかもしれないですね。僕は公立だったこともあったけど、代ゼミの笹井先生という方に会うまで国語の面白さというのが全く分かっていなかったですね。というか今の職業に就いていなかったんじゃないかと思うくらいです。読解の仕方とか論理的な読み方とかそういうのを根本から学びました。国語は本当に重要ですよね、読解法を知っているかどうかで大きく変わってくる。

柴田:そうなんですよね。でもすごい重要なのに「日本語ができるから国語もできるでしょ」みたいな考えの人も結構いたり、読解の仕方でも「傍線部の前後だけ読めば大丈夫」みたいな教え方をする人も本当にいたりして、それだと本質を捉えられなくなってしまう。この教え方が整備されれば全体のレベルがもっと上がるんじゃないかと思います。

開沼:そう思いますね。大学生が書くレポートを見ていてもかなりバラつくなと感じます。深い思考ができるかどうかというのがすごい影響しますね。

柴田:そういう点では文系・理系とありますけど、理系でも読解力というのはすごく重要だと思っていて、私立大の理系学部だと国語がなかったりしますけど、現代文だけでもやはり必要なんじゃないかと感じます。

開沼:中学受験もそうですが、評論を読むことで知識や常識を身につけることができますからね。

柴田:実際、国語に関しては中学受験をやる意味はかなり大きいと思っていて、例えば自分の場合、ほとんど中学受験で培った技術だけで大学受験でも通用していたんですよね。

開沼:なるほど、それは早ければ早いほどいいですね。僕は浪人するかしないかの瀬戸際くらいで読解の仕方が分かったので。

柴田:生徒に国語を教えるときには「ここで身につけた技術は大学受験でも使えるから」と伝えています。読解力は最初にある程度型ができればどんどん自分で進化していけるので、そういう面では国語を早めに教育するのは重要だと思います。

開沼:じゃああれですね、「中学受験をやる意味がないんじゃないか」論に対する反論の一つになりますね。

4.楽しく学ぶ大切さ

柴田:紙での勉強だと辛そうにやっていてもゲームだと楽しんでやってくれますが、そういう努力を努力と感じないようにするというのが大事かなと思います。自分が中学受験をしたときは全然苦ではなく、努力だとも思っていなかったんですよね。楽しさに気付かせるのはすごい大事だと思います。逆に興味がないのに無理やりやらせるのはもちろん必要ではありますが、そのコントロールを親ができるといいと思います。

開沼:これは個別指導塾業界の存在意義でもあるところで、やはりいい先生に会えるというのは偶然性に任せないといけないところもありますが、そういう先生に会えると勉強が楽しくなりますよね。それこそ受験して有名校に入るメリットの一つに、勉強の面白さに気づかせてくれる先生に出会える確率が上がるというのはありますよね。そして自分でも面白さに気付けるというルートに入っていければ完璧ですね。

柴田:そういう面白い先生が今はYouTubeでもいたりするのでいいですね。

開沼:そうですね。僕の場合は代ゼミサテラインでトップ講師の授業がどこでも受けられるというのをやっていました。当時はビデオテープでしたけど、何回も反復して観れるというのはよかったですね。それがなかったら今の自分はないですからね。

柴田:なんなら大学数学の勉強もできてしまいますからね。僕は大学では法学部だったんですが、数学が好きだったので数学の授業をとったんですよ。どういうテキストがいいかは分からなかったのでYouTubeに上がっている動画を観たんですが、それでしっかり勉強できました。今の環境はすごい恵まれているなと感じましたね。

開沼:いいですね。僕は受験で数学はつらいと思うこともあったけど、楽しいと思える状態で受験できていましたね。

柴田:根幹にあるのは「楽しい」という気持ちなんですよね。
僕は数学得意ではあったんですけどしっくりこない時もあって、突き詰めていくと本質ができていなかったというのが分かったんですね。中学受験の算数を教え始めてから3年経っているんですが、中学受験で必要な知識は数学でも必要だと感じることがすごくあります。それに気づいてから本質がもっと分かるようになって、さらに数学が面白いと感じるようになりました。だから中学受験には本質的理解という面などでもすごく意味があると思っています。

社会学から考える中学受験④はこちら

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T. S.

この記事を書いたのは...

T. S.

今まで別の個別指導塾で主任講師として、中学受験では4教科+適性検査型を担当してきた。自身で指揮を執り、全科目の指導、カリキュラムの作成、面談など、中学受験全般に関わることを行ってきた。授業が無い日もずっと校舎にいたため、周りからは地縛霊だとささやかれていた。

大会で何度か結果を残すくらいにはゲームが得意で、プロを本気で目指していた時期もあったが、コロナ禍と重なってしまい断念。ただ、今でも時々大会に出ているので、もしかしたらYouTubeのおすすめで私の顔が流れてくることがあるかも?

教え子の成長を見守るのが生きがいです。大人になった教え子たちと共に塾を開業するのが将来の夢です。

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